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「綾乃ちゃん、それはもういいわ?」
面倒くさい顔をして美登利は、荒れ狂って近付けた綾乃の顔に、更に近付けた。
綾乃の溢れそうになっている涙の蒸気を感じるほどの距離だ。
「ハァ!ハァ!私はあなたの友達!!違うの!?どうして!?美登利ちゃんは私の敵ぃ!?私をいじめる気ぃ!?ムグゥッ!!」
美登利は綾乃の出血した口の端から丸ごと唇を自分の口の中に収めた。
綾乃は目を閉じなかった。
閉じることができなかった。
目どころか体が硬直して動かない。
ショッキングなことを言われて、ショッキングな行動をされた綾乃は完全に自身のコントロールを失ってしまったのだ。
自分の大きな目には美登利の血走った目が写し出された。
自分の唇と鼻の一部まで美登利の口の中だ。
その中ではまるで巨大なヒルが濃度の高い二酸化炭素に反応し暴れ回っているかのように美登利の舌が跳ね回る。
「ンッ!!」
美登利の舌の先が、出血した口の端の傷に滑り込み、その鋭いながらも鈍重な痛みに、綾乃は一瞬体をよじった。
しかしその反応を感じた美登利の舌はズルズルと移動し、また綾乃の唇全体を凌辱し始めた。
一定時間経過すると、再び口の端の傷に舌を這い回らせる。
その度、綾乃は眉間にしわを寄せて軽い悲鳴を上げる。
それを二、三回繰り返すと綾乃は、自分は支配されているのだと自覚し始めてしまった。
それを証拠に綾乃の目は上向きになるのと、目を閉じるという動作を狂ったように繰り返し、体から力が抜けたように美登利にもたれかかっていた。
小さな痛みと、屈辱と、精神的な拘束を一定間隔で与えられた成長期の不安定な心は簡単に方向性を見失った。
美登利はそれを見逃さなかった。
大きな口を綾乃から離した。
ねっとりとした唾液が糸を引きながら、徐々に距離が離れていく。
綾乃の目からは涙が流れ、鼻水と美登利の唾液が混じり合う中で綾乃は嗚咽に体を震わせた。
口をすぼめ、大きな目はしょぼしょぼと老人のように細まり、前かがみになりながらゆっくりと綾乃の頭が下がっていく。
美登利は血走る目でその様子を見ていた。
自分が凌辱した綾乃が、負けを認めるように涙を流し、自分が与えた粘液を拭うこともせずに綾乃自身から流れ出た粘液と混じったままで自分の肩をめがけて頭が下がっていく様子はあまりにも滑稽だった。
綾乃の顔はポスッと軽い音を立てて美登利の右胸に埋まった。
美登利のハイブランドの長袖Tシャツの右側に綾乃の涙と唾液と鼻水、美登利自身の唾液が滲み、美登利はそのツンとした香りと冷ややかな感触に身震いした。
「何を早とちりしてるの?綾乃ちゃん。」
「ハァ…ふぅ…ふぅ…」
綾乃の反応はない。
「天くんはね?私の幼なじみで…初恋の人。それが死んじゃった。私の気持ちも分かる感じしない?」
美登利の胸にもたれたまま肩で息をしているだけだった綾乃は、小さく「くっ」と声を出して、ようやく話を始めた。
「あなたが幼なじみ…?私もそうだけど気持ちはわからないわ?初恋の人?それは気の毒ね…いじめをするような人間が初恋の人だなんて…気の毒でしょうがない…ふぅ…ふぅ…」
「人の胸の中で喧嘩を売るなんて随分と大胆ね。」
美登利は綾乃の両肩を持ち、引き離した。
「立ってごらん?綾乃ちゃん。」
美登利はニィと笑いながら言った。
綾乃は素直に立ち上がった。
なぜかは理解できないが、綾乃の体はまるで操り人形のように美登利の指示に従ったのだ。
「天くんに…愛された女…綾乃ちゃん…。入江田綾乃…」
美登利はそう言いながら立ち上がり、綾乃の目を見つめた。
綾乃を一飲みにしてしまいそうな大きな口を開き、笑っている。
「愛された!?何を言ってんの!?何をどう取れば愛されたってなるのよ!!いじめられてたって言ったでしょ!?あなたも同じ!?あなたも!私をいじめるの!?」
「綾乃ちゃんにはわからない…。それにね?綾乃ちゃん、私はいじめなんてくだらないことはしないわ?言ったでしょ?いじめなんて馬鹿みたいって。私ならそんな面倒なことしない。」
美登利は語尾と重なるタイミングで思い切り綾乃の右頬を平手で打った。
平手打ちというより顎下からすくい上げるような掌底打ちだ。
その衝撃は小柄な綾乃を転倒させた。
尻もちを着いた綾乃は泣き叫んだ。
「いじめなんてしない。直接こうするわ?」
「いじめられてた私にはこんなビンタくらいなんてことないわ!?」
元々切れていた口の端は更に深く切れて、流血している。
「立って。綾乃ちゃん。」
綾乃は美登利の言葉に、まるで赤ん坊が泣くように下顎を出して涙を流した。
そして不思議なことに美登利に言われた通り立ち上がってしまう。
まるでいじめられていた人間をコントロールする術を熟知しているようだ。
「亀さんになろっか。綾乃ちゃん。」
綾乃は美登利の言葉に抗うことができない。
泣きながらもその言葉に従う。
綾乃は何か取り憑かれたように慌ててスカートと下着を脱ぎ捨てて、四つんばいになると、美登利に向かって臀部を突き出した。
「アハハハ!天くんの言った通りね!!亀さんになろうって言ったら面白いって。さぁ!!もっとお尻突き出して!」
綾乃の涙はまるで滝のように目から落下していく。
醜く顔を歪めた綾乃はプルプルと体を震わせて、床に着いた両手でラグマットをたぐり寄せるように握り締めた。
そして美登利の言葉に抗うことはできず、まるで交尾を待つ四足歩行の動物のように腰を思い切り上げた。
「よし、そのまましててね?」
美登利は乱れたベッドの上に置いてあった自分のスマートフォンを構えた。
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