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終章
『神は、世界と匣をお創りになられた。
匣の中にはどんな絶望をも砕く希望が入っていると、神の遣いは仰ったそうな。
旧き伝えを信じる人々は星を詠み、精霊の森を抜け、地平線の果てへ手を伸ばす。
ソレに答える声などなく、無言の祈りを捧げた少女だけが、匣の前に導かれるだろう』
ブラムが森に落とした、匣の伝承が記された本をぱらぱらと捲ったあと、蝋人形のように白くなってしまったドーラを一瞥した悪魔は無感情に呟いた。
「導かれた結果がコレか」
彼女の前に膝をつき、柔らかかった頬を撫でると双眸を伏せる。
原初の時代、天上界を追放され地上堕ちした自身を救済しようと、創られたばかりの匣に手を伸ばした天使は手順を誤り、中の希望が絶望に変換された。
再び開封されるまで、絶望のみ納まる仕組みになっているが、天使もまた神の被造物であるが故に、間違えたペナルティとして位階を表す輪は汚染される程度に終わり、ドーラのように魂が取り込まれることはなかった。
つまり、本来であれば絶望の役割を果たすはずだった天使が匣の外にいるため、匣は永らく空の状態であり、そのままで問題はなかった。
だが神は、ドーラの祈りを利用して新たに人の形をした希望を生み出し、自力で匣に収まるように、そして匣が正しく機能するように仕組んだようだが、その結果がこれだ。
「最初から、生まれたての坊やを願望機としてしか見ていなかった災厄天使も、ドーラを利用した神も、悪魔なんかより余程イカれてやがる」
目を開いた悪魔はハートカズラで編まれた手向けの冠をドーラの胸元に置き、名残惜し気に髪を一撫でしたあと、天使と色違いである黒い羽を広げて飛び去った。
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