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「嫉妬防腐剤?」
思わず声が出た。
仕事帰りに駅の最寄りのコンビニで見つけた。
シンジが手にとってみると、小さなスプレーボトルだった。
「嫉妬心を抑える効果があります」という説明書きがあった。使用方法は簡単で、嫉妬を感じた瞬間に一吹きすれば、その感情が「冷却」されるという。
ものは試しだ。買ってみた。
しばらくは嫉妬防腐剤の存在を忘れていた。
しかし会社の同僚が月間MVPで表彰されたとき、どうしようもない嫉妬を感じた。あいつは同期なのに、なぜオレはこんな状況なのか。仕事ができない。
ひたすら落ち込んだ。
そのとき、嫉妬防腐剤を思い出した。
会社のトイレで、嫉妬防腐剤を一吹きした。
すると、嫉妬心が、ふっと消えた。
気持ちが軽くなった。
それからも、嫉妬を感じるたびに、嫉妬防腐剤を使った。
転職した友人が有名IT企業に入ったとき。
大学からの友人が起業してメディア取材されたとき。
知り合いの彼女が踊ってみた動画のぷち有名人だったとき。
SNSで友人がステキな海外旅行の写真をアップしていたとき。
嫉妬防腐剤を一吹きすれば、イヤな感情から逃れることができる。
シンジは、嫉妬防腐剤が手放せなくなった。
すると困ったことが起こった。
まわりの人を祝福する気持ちも同時になくなっていた。
親友の誕生日もうれしくもなんともない。
妹が結婚したときすら、うれしさを感じなかった。
シンジの感情は完全に鈍化した。
嫉妬を抑えこむと、こんな副作用が生まれるらしい…。
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