過分なる愛をあなたに

1/1
前へ
/1ページ
次へ
夜伽(よとぎ)にお()(いただ)きましたこと、(こころ)より……」 「世辞(せじ)結構(けっこう)。さっさと(はじ)めて」  (ひざまず)き、あわよくばこちらの()(くち)づけようとする(おとこ)口上(こうじょう)(さえぎ)ると、わたくしは(おとこ)寝屋(ねや)へと(とお)した。ゆっくりと(よこ)たわり、そのまま()()えるように(ほそ)(こし)をあげる。(おとこ)(さそ)うように()れるまろみ。それを()(おとこ)(たぎ)りと、(いき)をのむ気配(けはい)。けれどわたくしには、()一筋(ひとすじ)ほどにも興味(きょうみ)のないことだ。  そのまま(だま)って(あし)(ひら)く。(はや)()わらせてほしい。あのひとでないなら、(だれ)(むつ)みあったところで(おな)じこと。どうでも()(おとこ)(あい)など、ただただ鬱陶(うっとう)しい。  必要(ひつよう)なのはこの(おとこ)子種(こだね)だけ。たとえ同族(どうぞく)とはいえ、(おとこ)への愛情(あいじょう)などない。そう(のたま)うわたくしとて、(くに)()ませるための道具(どうぐ)()ぎない。()めよ、(そだ)てよ。一体(いったい)いつまで()()めば、わたくしは(ゆる)されるのだろう。この(おとこ)(つぎ)はまた(べつ)(おとこ)(おのれ)宿命(しゅくめい)(いと)わしさよ。  わたくしの(うれ)いなど()らず、(おとこ)たちはわたくしの(こころ)()しいのだと()う。()()てて功績(こうせき)(のこ)すこともなく、侍女(じじょ)のように(しろ)(はたら)くこともなく、(くに)(ささ)えるために(とお)くまで(はたら)きに()ることもない。子種(こだね)()くだけのただ飯食(めしぐ)らいのくせに、わたくしの(こころ)(ほっ)するなど!  わたくしは、(おのれ)(のぞ)みを()っている。(だれ)(なに)()われても、(おとこ)たちの()()ることは(けっ)してないのだ。 「()ってるだろ、(おれ)にしとけって」 「貴女(あなた)になら(いのち)(ささ)げられる」 「()まれるずっと(まえ)よりあなたをお(した)いしておりました」  いきなり部屋(へや)(すみ)に わたくしを()(たお)して、睦言(むつごと)(ささや)いてみたり。唐突(とうとつ)首筋(くびすじ)(やいば)()きつけてみたり。はたまた地面(じべた)(うえ)妄想(もうそう)(ひた)ってみたり。まったく(おとこ)とはどうしようもない()(もの)だこと。  それぞれの気取(きど)った仕草(しぐさ)にため(いき)さえこぼれる。ああ、(まった)(しゃく)にさわる。それゆえにわたくしは、定期的(ていきてき)適当(てきとう)(おとこ)見定(みさだ)めるのだ。  それほどまでに(あい)()うのであれば、()きにすると()い。わたくしに(えら)ばれても、(えら)ばれなくとも、(おとこ)どもは、どうせみなすぐにあの()旅立(たびだ)つのだ。(おのれ)(おさ)えつけ、(あさ)ましく(こし)()しつけてくる(おとこ)をそうとは()られぬように嘲笑(あざわら)う。  わたくしは、(いと)しいひとを(おも)()す。逢瀬(おうせ)さえ(のぞ)むべくもない、あまりに(とお)いあなた。(しろ)くまばゆいあなたの(よろい)。ちらりと()えたあなたの(ひとみ)は、わたくしと(おな)黒曜石(こくようせき)(いろ)。あなたはわたくしの(こころ)など、きっと()らない。この(くに)宝物(ほうもつ)を、侍女(じじょ)たちの()よりただ()()るだけ。  それでも()いのです。あなたさえ(しあわ)せでいてくれるなら、わたくしはそれだけで()い。あなたを(きず)つけるものを、わたくしは(ゆる)さない。あなたのために、()()み、この(くに)素晴(すばら)しいものにいたしましょう。領土(りょうど)(ひろ)げ、ますます(おお)くの宝物(ほうもつ)(あつ)め、あなたに(ささ)げられるように。それであなたを(しあわ)せにできるというのなら、わたくしは同族(どうぞく)だって犠牲(ぎせい)にできる。 ーーーーーーーーーーーー  (おれ)はネット()しに(ひたい)(あせ)(ぬぐ)うと、巣箱(すばこ)()()した。(おも)採蜜(さいみつ)時期(じき)はもっと(あと)だけれど、この時期(じき)でもやらないことはない。いずれも()れの状態(じょうたい)によって(こと)なるのだ。そっと(はず)したスノコにはもごもごと(うご)蜜蜂(みつばち)()れ。ゆっくり(いき)()ければそれだけで、巣箱(すばこ)(ぬし)たちはこちらの()()むように(はな)れていってくれる。 「マジで、(うらや)ましい。(ぼく)、ここに入社(にゅうしゃ)して以来(いらい)結構(けっこう)しゃれにならないくらい()されてますよ。って、ほらまた、いたっ!」  まあ()をつけろよ。(おれ)はそれだけ()うと、また作業(さぎょう)(もど)る。(はち)との相性(あいしょう)というものもあるのだろう、(おれ)(はち)()されることはほぼない。(はじ)めて仕事(しごと)をした(とき)にちくりとやられただけだ。  少々(しょうしょう)奇妙(きみょう)(おも)うものの、まあ()にするだけ無駄(むだ)なことだ。そう()えば、この仕事(しごと)(はじ)めて春恒例(はるこうれい)(はな)のむずむずも(なお)ったような。プロポリスの効能(こうのう)とやらはさておき、やはり(しょう)()っているのだろう。 「女王様(じょおうさま)(あい)されてるってことじゃないです?」  しょうもないジョークに(おも)わずすっ(ころ)びつつ、(おれ)はまた作業(さぎょう)(はじ)める。巣箱(すばこ)(おく)でひたすらに交尾(こうび)(はげ)女王様(じょおうさま)。その(めぐ)みを今日(きょう)(うやうや)しく、(おれ)(いただ)く。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加