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「うん。そう。タリアへ行ってから今回の戦争が起きるまでは一度も戻らなかった」
やはり。隣国は遠すぎるんだ。
リサは固辞していたし、キッチンから戻ってきたエドワードに提案しても同様に断られたが、私はウェーデンへ行く前に父の元に寄って、強引にでもエドワードを辞めさせることに決めた。
夫婦が離れて暮らすなんて、そんなの見過ごせない。エドワード夫婦の孤児院に援助するくらいのお金ならある。むしろなぜ今まで思い浮かばなかったんだろう。
エドワードが結婚していることは知っていたけど、私のことをずっと見守ってくれている執事だとしか見ていなかった。そのエドワードに家族がいて、死ぬまで守りたいと思うほど愛している人と離れて暮らしているなんて知らなかったし、知ろうともしなかった。父以上に慕っているというのに。
寂しい思いをしているのならなんとかしてあげたい。エドワードへの恩返しだ。
シュヴァリエと離れなければならないことがわかってから、以前にも増して別離の辛さを感じるようになった。
母とは物心がつくまえに離れ離れだったし、ウェーデンへ向かうときにエドワードと離れることは辛かったけど、今感じているほどではない。
シュヴァリエと別れ難かった。数ヶ月の付き合いなのに、シュヴァリエが側にいない生活が想像できない。
なぜこんな風に感じるのかわからないけど、離れることの辛さを知ったから、離れずに済む二人がいるのなら、私の力でできる限りのことをしてあげたいと思った。
だったら私もシュヴァリエから離れず、ランスにいればいいのだろうけど、両親もいない屋敷もないランスに、令嬢が一人で留まるなんて、そんな理由のないことはできない。
ここを訪れた用事は済んだ。孤児院に長期滞在するわけにはいかない。明日にでも出立する必要がある。
明日になればシュヴァリエとはお別れだ。
用意してもらった個室のベッドで横になった私は、シュヴァリエとの別れを考えてなぜか涙が出てきて止まらず、眠れぬ夜を過ごした。
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