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39. 何が不満なの?
翌日朝食をとったあと、出発する前にシュヴァリエと買い物に出た。着の身着のままでウェーデンからランスへ来ていたため、着替えや必要品が欲しかったのと、浮車の代わりになるものを求めて来たのだ。
魔法で浮かせるので馬は要りませんとは言えず、人気のない場所へ運ぶ必要もあるため、馬ごと馬車を購入し、荷物を積みこんで、シュヴァリエと昼食をとった。あとは孤児院に戻ってエドワードたちに挨拶をして、タリアへ向かうだけだ。父にエドワードのことを頼んだあとウェーデンへ戻る。
「休暇はいつまでなの?」
シュヴァリエは三皿目だ。このガツガツと食べるシュヴァリエの姿も見納めね。
「期間は過ぎています。ただ戻っていないだけです」
「そうなの? じゃあ、今日にでも戻った方がいいわね」
シュヴァリエは食事に集中していて答えない。食べ終わりそうだわ。
いつもはもう一皿お代わりするから、そろそろ注文しないと待つことになるわよ?
「参りましょう」
シュヴァリエがいきなり立ち上がった。
「食べないの?」
「なにがですか?」
「いつも四皿くらい食べるじゃない」
「……参りましょう」
そう言って、私が立ち上がってもいないのに一人で店の外へ出ていった。
なによあれ?
シュヴァリエは馬車の御者台に既に座っていて、出発準備は完了していた。
ろくに会話もしないまま、私が乗り込んだら孤児院へ戻ってすぐお別れだ。なんだか呆気ないほどだわ。
「いかがされたんですか?」シュヴァリエが目を丸くして私を見た。
「ここに座ってみたかったのよね。何度頼んでもエドワードは許してくれなくて」
私は御者席のシュヴァリエの隣に無理やり場所を取った。
「危険ですよ」シュヴァリエは慌てている。
「いいから行きなさい!」
私はシュヴァリエの手から手綱をとって、馬を進ませた。手綱を返すと、シュヴァリエは観念したように前を向き馬を御し始めた。
しばらく進んだあと、何気ないふうにして私は聞いた。
「なにか、怒ってる?」
シュヴァリエは答えない。それは肯定しているということ?
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