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「なんで怒ってるのよ! もうお別れなのよ? 最後なのにそんな態度でいられると不愉快よ」
シュヴァリエはまだ無言のままだ。真っ直ぐ前を向いて馬を御している。
「シュヴァリエ!」
私はいい加減苛ついて、また手綱をとって今度は馬を止まらせた。
路肩に寄せる余裕がなかったため、後ろにいた馬車の御者の怒鳴り声が聞こえた。
シュヴァリエは大きくため息をつくと、ようやく私に視線を向けた。
「なぜ僕がエマ様に怒る必要があるんですか?」
「怒ってるじゃない」
「怒っていません」
シュヴァリエは前へ向き直り、馬を進め始めた。
「何か不満があるの?」
喧嘩腰では埒が明かないと判断した私は、優しく聞こえるように努めてみた。
シュヴァリエは前を向いたまますぐには答えなかったが、私が辛抱強く待っていると、しばらくして口を開いた。
「あります」
「何が不満なの?」
シュヴァリエがちらりと私を見る。
「なぜ僕がランスに留まらなければならないのですか?」
またそれ?
「あんた騎士なんでしょ? それが仕事じゃない」
「僕はエマ様の騎士なだけで、国の兵士ではありません」
「じゃあなんで軍に入ったのよ?」
「それは申し上げました」
えっ? あー……
「私のため?」
「はい」
本当にそれが理由なの? 最初はそうだとしても、今は違うでしょう?
「将校としての責任はどうするの?」
「そんなもの知りません。命令を実行していたら勝手に少佐に任命されただけです。最初からエマ様のお側に就く日が来るまでと決めていましたから、もう軍に在籍する理由はありません」
「無責任じゃない! 軍だけでなく王太子殿下からも必要とされているのに」
「何度も申し上げておりますが、僕はエマ様をお守りするために生きているのです。それ以外のことは僕にとって何の意味もない」
「お守りするって、もう防御魔法もあるし、守る必要なんてないわ」
「そうですね。エマ様は公爵令嬢なのに騎士よりも誰よりもお強いですから」不貞腐れたように言う。
なによ?
「だからシュヴァリエは必要とされるところに行くんでしょう? 私よりも国を守りなさいよ」
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