39. 何が不満なの?

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「なんで怒ってるのよ! もうお別れなのよ? 最後なのにそんな態度でいられると不愉快よ」  シュヴァリエはまだ無言のままだ。真っ直ぐ前を向いて馬を御している。 「シュヴァリエ!」  私はいい加減苛ついて、また手綱をとって今度は馬を止まらせた。  路肩に寄せる余裕がなかったため、後ろにいた馬車の御者の怒鳴り声が聞こえた。  シュヴァリエは大きくため息をつくと、ようやく私に視線を向けた。 「なぜ僕がエマ様に怒る必要があるんですか?」 「怒ってるじゃない」 「怒っていません」  シュヴァリエは前へ向き直り、馬を進め始めた。 「何か不満があるの?」  喧嘩腰では埒が明かないと判断した私は、優しく聞こえるように努めてみた。  シュヴァリエは前を向いたまますぐには答えなかったが、私が辛抱強く待っていると、しばらくして口を開いた。 「あります」 「何が不満なの?」  シュヴァリエがちらりと私を見る。 「なぜ僕がランスに留まらなければならないのですか?」  またそれ? 「あんた騎士なんでしょ? それが仕事じゃない」 「僕はエマ様の騎士なだけで、国の兵士ではありません」 「じゃあなんで軍に入ったのよ?」 「それは申し上げました」  えっ? あー…… 「私のため?」 「はい」  本当にそれが理由なの? 最初はそうだとしても、今は違うでしょう? 「将校としての責任はどうするの?」 「そんなもの知りません。命令を実行していたら勝手に少佐に任命されただけです。最初からエマ様のお側に就く日が来るまでと決めていましたから、もう軍に在籍する理由はありません」 「無責任じゃない! 軍だけでなく王太子殿下からも必要とされているのに」 「何度も申し上げておりますが、僕はエマ様をお守りするために生きているのです。それ以外のことは僕にとって何の意味もない」 「お守りするって、もう防御魔法もあるし、守る必要なんてないわ」 「そうですね。エマ様は公爵令嬢なのに騎士よりも誰よりもお強いですから」不貞腐れたように言う。  なによ? 「だからシュヴァリエは必要とされるところに行くんでしょう? 私よりも国を守りなさいよ」
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