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「幸福な結婚をされるために幼い頃から努力をなさってきたのですよね?」
そうね。そうだわ。私はそのためだけに毎日一生懸命努力をし続けてきて。最高の相手と結婚するために、ただそれだけを夢見て頑張ってきた。
でも、それがいったい何になるのかしら? 最高の相手と結婚して、社交界で敬われ、羨望の目で見られて、それが何になるのかしら?
ウェーデンへ行こうとしたのは社交界が嫌になったからだけど、私を愛してくれている人に抱きしめてもらいたい、それを求めて母の元へ行こうと決意したのよ。社交界では私を愛してくれる人なんていないと思ったからだわ。
「私を愛してくれる人がいたら結婚したいけど、そんな人現れないわ。ヴァロワ家の一人娘という名とお金がなければ、そんな人現れない」
「います!」
また立ち上がろうとした。わかったから、危ないことはもう止めて!
「どこにいるのよ? いたら教えてよ」
「教えたくありません」
はあ?
「何よそれ」
「あんな男、エマ様に相応しくありません」
「誰よ?」
シュヴァリエは眉間に皺を寄せて言い淀んだあと、口重く言い始めた。
「……シャイン伯爵をお選びになるのは……僕は……許容できません」
シャイン伯爵?
私は大声で笑った。
「まさか! そんなわけないじゃない? 伯爵には既にお相手がいらっしゃるのよ?」
「ですが、エマ様を褒めそやしておりました」
「それは単なる社交辞令よ」笑いが止まらない。可笑しいわ。「それに、私も伯爵とは幸福な結婚ができるとは思えないわ」
シュヴァリエは目を丸くした。
「では、どういった方がお相手なら幸福になれるのですか?」
「私を本気で愛してくれる方がいて、私もその方に好感を持つことができたら幸福になれるでしょうけれど、令嬢に選択権なんてないもの。私たち令嬢は、少しでも良きお相手に見初められるように心を尽くすことしかできない。その方が素晴らしい方かどうか、私を愛してくれる方かどうかは天の采配ね」
シュヴァリエは答えず、それからしばらく考え込むようにして黙り込んでしまった。
馬車はいつの間にやら孤児院の近くにまで来ていて、会話は止まったまま別れのときが来てしまった。
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