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いつの間にかアルトワ伯爵とシュヴァリエが応接室へ来ていたようだ。考え事をしていて気がつかなかった。
「大変失礼いたしました、王太子殿下」立ち上がって礼をする。
「いかがされました?」
殿下は私の真向かいの一人掛けソファに腰を下ろした。シュヴァリエは気を落とした様子で立ちすくんでいる。
「シュヴァリエの爵位のことで──」
「ああ、本人にも申しましたが、まあ5年は務めてもらえれば準男爵くらいなら可能かもしれないと」
本当に? それは凄い。ベルタン侯爵は無理だと言っていたのに!
「ですが、そのような不相応な進言をしてシュヴァリエの立場に影響はありませんか?」
「問題ありません。誰もが爵位を欲しがっております。それくらいの野心がある方が気概があっていいくらいです」
そうなんだ……じゃあ、止めにくる必要はなかったようね。
「では、よろしくおねがいします」元主人として頭を下げた。
「いえいえ。お約束通りにしていただきまして感謝いたします」
お約束? ああ、私から離れないと言ったシュヴァリエを止めると言った話ね。
シュヴァリエに爵位なんて必要ないと思ったけど、本人がその気で、殿下も軍も野心があっていいと認めるくらいなら、シュヴァリエの人生を考えればその方がいいのかもしれない。
私とシュヴァリエは辞去して、ランス城を後にした。
馬車に乗り込んで、隣に腰掛けたシュヴァリエに声をかける。
「シュヴァリエはこれから宿営地に行くの? もしだったら送るわよ。浮車にすれば早く着くし」
「……エマ様は、僕と離れても構わないんですか?」
「えっ?」
シュヴァリエは俯いていた顔をあげて私と目を合わせた。
「僕は離れたくありません」
「そうは言っても5年頑張れば爵位をもらえるらしいじゃない。こんないい話はないと思うわ」
「5年もエマ様と離れなければなりません」
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