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「尊敬はしておりますが、そんな憧れのような程度ではありません。僕のことを執事か騎士としてしか見ていらっしゃらないことは重々承知しておりますが、僕はエマ様を愛しています。これまでは、身の安全をお守りするために努めて参りましたが、騎士としても役立たずになり、執事としても不要だと申されて、それでも愛している方のお側から離れたくないと考えて、無謀でも求婚する以外に思いつきませんでした」
どういうこと? 今まで好きだって言っていたのは英雄だからじゃなく、女性として愛していたということなの?
殿下の前でも、誰に対しても「エマ様をお守りするために」と言って曲げずにしつこく言い張っていたのも、忠誠心ではなく愛だったの?
抱きしめてきたのも、慰めるとか心寂しいからではなく、私を愛していたからだったの?
そんなの全然……そんな風に考えたことなかったわ。
あんな不遜な態度で主人に仕えて……私を前にすると自制を失うって……子供の頃から私を心の拠り所にして尊敬して、そのために生きる希望を持って……そう言っていたのも、私を愛していたからだったの?
シュヴァリエが私を一人の女性として愛しているだなんて──嘘でしょう?
今さら気がついて顔が熱くなった。
シュヴァリエは私の驚いた顔を見て目を伏せた。落ち込んだように肩を落として窓の外へ顔を背けて……
「止めてください」
シュヴァリエが御者に声をかけて馬車を止めさせた。
降りるの? ドアノブに手をかけて出ていこうとしている。
「待ちなさい!」
シュヴァリエの腕を掴む。
振り向いた顔は──今にも泣きそうな顔をして──
「ランス城へ戻るわよ!」ドアを閉めて「城へ戻って!」御者に伝えた。
「エマ様?」
「私と離れたくないなら除隊してきなさい」
ぽかんとした顔をしているわ。
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