1. 公爵令嬢の私は最高の相手と結婚することになりました

3/5
前へ
/157ページ
次へ
 ノブを回す動作も手間で体当たりでドアを開け、私は車外へ飛び出した。  すぐさま臨戦態勢を取る。携帯している短刀は車中で既に引き抜いていた。  ランプの明かりが届く範囲は極わずかで、辺り一面は闇に包まれているが、瞬く間にきらめいた剣先は見逃さなかった。  足音に耳を済ませて距離を測り、その剣先の柄のあたりを短刀で切り裂く。  うめき声と共に後ずさる音。私はさらに二歩踏み込んで、相手の急所あたりをめいいっぱい拳で叩いた。 「そうです。お嬢様は力の使い方がお上手です。紳士を相手にしても負けないでしょう」  エドワードのその言葉は正しかった。相手は一撃で地面に倒れ伏した。  まだ仲間はいる。  私は気を抜かずにすぐにその場を離れ、呼吸を鎮めて耳を澄ませた。  微かに枝を踏む音が聞こえ、それと同時に音のする方へ短刀を投げる。  うめき声と倒れる音。  あっ! 後ろから首を絞められた。私は背後に向かって思いっきり肘鉄を食らわせる。  全然だめだ。どうしたらいい?  足を振り上げ、後ろに向かって力いっぱい蹴りつけるが、かするだけで当たらない。  そして頬に冷たい感触が……  短刀だ。 「令嬢か? お転婆なお嬢様だ。おい、名を言え。お前の親に金を出させる」  私は答えない。 「ふん。黙っていられるのも今のうちだ」  男は私の頬に短刀を滑らせる。熱い。  冷たい刃先が触れた後に頬を液体がつたう。 「(かしら)、中に男がいますぜ」 「ふん。女に戦わせて男はビビっているのか? 誰だ?」 「こいつはコンティの息子でしょう。見たことあります。ひ弱な坊っちゃんですよ」 「コンティか。あそこは貧乏貴族だ。仲間の金貸しも苦労している。……ということは……」 「ランスから来たという金持ちの娘じゃないですかね?」  こんな野盗が私のことを知っているとは…… 「それはいい。生かしておくか」 「かなり金をせしめられますぜ」 「ああ」
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加