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「しかし、なんて女だ。二人も殺っちまった」
「死んではいないはずよ? 見てみなさい……」
私がそう言うと野盗は倒れた二人に意識を向けた。──今だ!
私は自分の手を掴んで腰を落とす。左足を前に出しながら右足で踏ん張って全体重を後ろにかけた。野盗の腕の力が緩んだため私は地面に転がり、すぐさま立ち上がって馬車へと走る。御者席の後ろに剣があるはずだ。──あった!
「お嬢様、やる時は一斬りです」
はいはい、エドワード。
剣術はスピードと間合い。男から離れてまだ数秒と経っていない今なら油断しているはずだ。
剣を取りに駆けた勢いをそのままに、方向を変える遠心力をも利用して、私を羽交い締めにしていた男に飛びかかり剣で突いた。続いてその男を『頭』と呼んでいた男に斬りかかる。
そいつは短剣を腰から取り出して応戦したが、エドワード直々に剣を習った私に三下程度が敵うはずがない。
初めての実戦だったが、思ったよりも冷静に対処できた。
護衛のいない貴族を狙うだけの野盗など、大した相手ではない。
息を整えながら馬車へ向かう。
コンティ公爵は大丈夫だろうか? 体調が悪いというのにこんな目に遭ってさぞかし怯えているだろう。
いつも優しく私を案じてくれているお方だから、心配をかけないように元気に振る舞わねば……。
馬車のドアを開ける。
あれ? コンティ公爵がいない。
耳を澄ませると、走り去っていく足音が微かに聞こえる。
逃げたのか!
気持ちはわからないでもないが、婚約者の私が羽交い締めにされ、頬に短刀を当てられていたというのに逃げるとは……
私は後を追った。毎日散歩をすると言って実は走り込みをしている私の足は、令嬢の中でも類稀な速さだろう。病弱なコンティ公爵に追いつくには数分とかからなかった。
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