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2. また一から結婚相手を探さなければならないの?
馬車のところへ戻って御者を介抱したものの、馬がいなくなってしまって動かせないので置いて行かざるを得なかった。
イヴレーア邸へ到着をすると、コンティ公爵の到着から30分も遅れたばかりか、ドレスは泥だらけで顔には切り傷まである私を見て、右へ左への大騒ぎになった。野盗に襲われたことを伝えると、よくぞご無事でと誰もが安堵の涙を流してくれた。
コンティ公爵は怯えて狼狽え、何を聞いても支離滅裂なことしか言わないため、何が起きたのかわからず心配していたそうだ。今は部屋で休んでいるという。
着替えを済ませた私は休むどころではない程の空腹だったので、夜会に出席させて欲しいと頼むと、それはもちろんと歓迎されたが、そんな目に遭って食事をできるのかと驚かれた。
晩餐の席で隣になったのはイヴレーア公爵の孫娘であるミス・マリオンだった。
彼女は汚れたドレスの代わりにと快く上等なドレスを貸してくれたばかりか、訪問してから洗面を手伝ってくれたりと、何かと気遣いを見せてくれて、好感を抱いていた。
「ミス・ヴァロワはお強い方なんですね」
私は牛フィレ肉とフォアグラのロッシーニをつついていた手を止めて彼女の方を向いた。
強いとは精神のことだろう。野盗を自力で撃退したとは言っていない。御者がやられて……と濁したから、御者が傷を負いながらも果敢に撃退したと思われて訂正をしていなかった。
「ありがとうございます。ですがイヴレーア邸の晩餐は自国ランスの料理に近いと伺って、久しく頂いていなかった自国の味を楽しみにしておりましたので……」
「ええ、お口に合うと嬉しいです」
「とても素晴らしいです。どれも美味しく頂いております」
「それは良かった」ミス・マリオンはそう言って顔を近づけたかと思うと、声を潜めた。
「ミス・ヴァロワが野盗を追い払ったそうですね。……いえ、全て殺してしまったと」
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