1. 公爵令嬢の私は最高の相手と結婚することになりました

1/5
前へ
/152ページ
次へ

1. 公爵令嬢の私は最高の相手と結婚することになりました

 貴族令嬢として生まれ落ちた者は、誰と結婚するかで運命が決まる。愛のない結婚でも、多くの人から慕われ世間で評判となるような人物であったのなら、その令嬢は──どんなに不器量でわがままで評判が悪かろうとも──誰もが一目置く存在となる。  エマ・ヴァロワは、国一番のレディだと自らを評価していた。  幼い頃から美貌と利発さを褒められ、公爵令嬢として敬われながらも、それに甘んじることなく勉学に励み、ピアノもヴァイオリンも、それだけでなくレディとしては珍しく、スポーツや護身術にも熱心に取り組み、文武両道と言って差し支えない完璧な貴族令嬢だとの自負を持っていた。  そんな私に相応しい結婚相手は、誰もが羨む完璧な紳士でなければならない。そう考えて見つけた相手は、トリスターノ・コンティ公爵だった。  コンティ公爵は頭脳明晰で才気があり、家族友人はもちろん使用人からも愛される人柄で、20代半ばの若さでありながら国中の尊敬を集めている。  いつも書斎で読書をしているばかりで、数十分の散歩がやっと、という多少病弱な面はあるが、むしろそれくらいの方が完璧であるよりも愛らしい。  自国ランスでは良き結婚相手に巡り会えなかった私は、隣国タリアの名門貴族であるコンティ家との縁談を結んだ。  父もランスでは大臣止まりだったが、この縁談が成立すれば権力者のコンティ家と親戚関係になるというので大喜びだった。  今夜は、隠居して広大な森の奥に引っ込んでいるイヴレーア老公爵の邸に、コンティ公爵と共に招かれている重要な夜会の日だった。  コンティ公爵は先週から熱病を患っていて、治りかけてはいたものの、もう少し自邸で休みたいと言うので婚約者である私と共にぎりぎりの時間までコンティ邸に留まっていた。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加