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齧る、貪る、愛してる。
彼女からする腐食の香りはもう時間がないことを告げているよう。消毒剤の独特な匂いが部屋いっぱいに充満していて、今にでも吐き出してしまいそうだ。何度ここを訪れても慣れないのは、受け入れがたい現実が手招きしているからだろうか?
僕の焦燥を察したのか、ベッドに横たわる彼女はくしゃりと笑ってみせる。
「私は元気だよ? だからそんな顔しないで」
心の底から吐かれた嘘は力のない僕を嘲る。
どうすることもできない。無力な僕にできることは彼女を悲しませないように笑顔の仮面を貼り付けることだ。かける言葉を溜飲し、血液が滴るほど唇を噛み締める。
彼女は臓器に病を患っている。何度も手術は行われたが、それは一ヶ所に留まらずに身体を蝕んでいく。移植の話もあった。しかし希望する者などいるはずもなく、医者も匙を投げてしまった。
痛みを和らげることはしてくれるが、それは一時的なもの。彼女の最期を伸ばしているわけではない。
「ねぇ、学校は楽しい?」
まだ十六歳という若さで寝たきりの彼女の質問に答えることはなかった。
交わしてしまえば、それが最後の会話になってしまいそうな気がした。どこまでも弱い僕の言葉なんかに意味を持たせられるわけもなく、目を背けることしかできない。
「もっと生きたかったな」
呟かれた言葉を溜息の中に隠して、彼女はまた幼稚な笑顔で僕を見つめる。その瞳の奥に僕は映っていただろうか?
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