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夜空に浮かぶ星々は変わらず輝いている。俺たちの時間は限られているかもしれないが、この星空の下で一緒に過ごすことができる限り、俺はそれで十分だ。 遥と過ごすこの時間が、俺にとって何よりも大切なのだから。 俺たちはしばらくの間、無言で星空を眺めていた。時折、彼女の手がかすかに震えるのを感じるたびに、心が締めつけられた。 彼女の体も、俺と同じように限界に近づいているのだろう。それでも、俺たちはお互いにその事実に触れないようにしていた。言葉にすれば、全てが現実になってしまう気がして。 「ねえ、優斗……」 遥がそっと口を開いた。彼女の声は、夜の静けさに吸い込まれるように柔らかく響いた。 「もし、もしもだよ。私たちがもっと元気だったら、何をしてたんだろうね」 その問いかけに、俺はしばらく言葉を探すことができなかった。もし元気だったら。もし俺たちがこの病気を持っていなかったら。そんな「もしも」の世界を想像することすら、もう忘れていた。 「元気だったら……そうだな」 俺は遥の顔を見つめながら、少し考え込んだ。彼女の目には期待と少しの寂しさが混じっていた。 「まずは、二人で旅行に行きたいな」 「旅行?」 遥が驚いたように笑う。 「ああ。俺、ずっと夢だったんだ。広い世界を見たいってさ。北海道の広い草原とか、沖縄の綺麗な海とか、そういうのを遥と一緒に見られたら、最高だろうなって思ってた」 「……いいな、それ」 遥の目が少し潤んでいるのに気づいた。俺は慌てて続けた。 「それから、普通にデートとかもしてみたい。映画とか、遊園地とか。あとは……」 言葉が喉につまる。普通に生きていれば、誰でもできるようなことだ。だけど、俺たちにはそれが叶わない。 だからこそ、そんな些細なことが、途方もなく大きな夢に感じてしまう。
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