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次の日、遥は病院の庭に出ることを提案してくれた。体調はあまり良くないはずなのに、彼女は無理にでも外に出ようとしていた。俺は最初、止めようとしたが、彼女の強い意志を感じて、結局一緒に外に出ることにした。 庭には色とりどりの花が咲き乱れていた。秋の空気が冷たく心地よく、俺たちはベンチに座ってその光景を楽しんだ。彼女は風に吹かれる髪を抑えながら、空を見上げていた。 「こうして外の空気を吸うと、まだ生きてるって感じがするね」 「……そうだな。俺たち、まだ生きてる」 俺は彼女の言葉に応えると同時に、その手を握った。俺たちはお互いに限られた時間の中で、できるだけ一緒にいることを選んでいる。それがどれだけ短くても、俺は彼女と共に過ごす時間を大切にしたい。 遥の顔に浮かぶ笑顔は、今も俺の胸に刻み込まれている。たとえこれから先、どれだけの時間が残されていようとも、この瞬間は永遠に俺たちの心に残るだろう。 その日、俺たちは庭のベンチで長い時間を過ごした。遥の体調が心配だったが、彼女はその日一日、まるで病気のことを忘れたかのように楽しそうだった。 俺もそれに引きずられるように、今この瞬間をできるだけ大切にしようと思った。遥の笑顔を見ていると、それ以外のことはすべてどうでもよくなってしまう。 「ねえ、優斗」 夕方、日が沈みかける空を見上げながら、遥がつぶやいた。 「うん?」 「今日みたいな日が、ずっと続けばいいのにね」 その言葉には、はかない願いが込められているように聞こえた。遥も俺も、わかっている。こんな日がずっと続くわけがないことを。だけど、そんな「当たり前」がどれだけ尊いものなのか、俺たちは誰よりも理解している。 「そうだな……俺もそう思うよ」 俺は彼女の言葉に頷きながら、心の中で強く願った。たとえ時間が限られていても、せめてこの瞬間だけは永遠に続いてほしいと。 遥は俺の肩にそっと頭を寄せた。彼女の髪からほのかに香るシャンプーの匂いが、心地よくて、俺はしばらくの間、そのぬくもりを感じていた。 「優斗……もし、私が先にいなくなっても、忘れないでね」 突然の言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。 「そんなこと……言うなよ」 俺は彼女を見つめ、必死に笑顔を作ろうとしたが、うまくいかなかった。彼女の言葉が、あまりに現実的すぎて、何も言い返せなかった。 「ごめんね、でも、そう思うと怖くなくなるんだ。いつか、どこかでまた会えるって信じてるから」 彼女は少し寂しそうに微笑んだ。その笑顔を見て、俺は言葉を失った。遥がこんなにも強く、前向きに生きようとしているのに、俺はどうしてこうも弱いのだろう。心の中で自分を責めた。 「俺も、忘れないよ。絶対に」 それだけは、確かだった。彼女のことを忘れるなんて、そんなことは絶対にあり得ない。遥は俺の人生そのものだ。彼女がいなければ、俺は何も意味を持たない。 「ありがとう、優斗。そう言ってくれるだけで、私は十分幸せだよ」 彼女は俺の手を優しく握り返した。その手の温かさを感じながら、俺は心の中で彼女との約束を固く誓った。たとえ何が起こっても、俺は彼女を忘れない。彼女との思い出は、俺の中で永遠に輝き続けるだろう。
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