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それから数日が経ち、俺たちはできる限り一緒に過ごす時間を大切にした。病室で話をしたり、病院の小さな庭を散歩したり。 何気ない時間が、俺たちにとっては宝物だった。だけど、どんなに願っても、現実は容赦なく訪れる。 ある日、いつものように遥と話すために彼女の病室を訪れたとき、彼女のベッドは空だった。看護師が俺に告げた。 「遥さんは、今朝容体が急変して、集中治療室に運ばれました」 その言葉が耳に入った瞬間、頭の中が真っ白になった。遅かれ早かれ、こういう日が来ることはわかっていた。それでも、準備なんてできるはずがなかった。俺は無意識に走り出し、集中治療室へと向かった。 扉の前で立ち止まり、呼吸を整える。遥がここにいるのだ。俺は、彼女のためにできることがあるのだろうか。震える手で扉を開けた。 中には、機械の音だけが響く静寂の中、ベッドに横たわる遥の姿があった。酸素マスクをつけた彼女は、かつての明るい笑顔が想像できないほどにやつれていた。俺は一歩、また一歩と、彼女の元へ近づいた。 「……遥」 俺の声はかすれていた。彼女がゆっくりと目を開け、俺の方を見た。 「優斗……」 彼女の声はか細く、かすかに震えていた。それでも、彼女の目には確かに俺を見つめる強い意志があった。 「ごめんね……こんな姿、見せたくなかったのに」 「何言ってんだよ。俺はお前に会いたかった。それだけだ」 俺は彼女の手をそっと握りしめた。今はただ、この手を離さないように、そう思うことしかできなかった。 「ありがとう……優斗。こうして、最後に会えてよかった」 その言葉を聞いて、胸が締めつけられる。涙がこぼれそうになるのを必死にこらえながら、俺は彼女の手を強く握った。 「俺たち、まだ終わってないだろ? これからも一緒だって、言ったじゃないか」 俺の言葉に、彼女は微かに笑った。 「うん、そうだね。きっとまた会えるよ、優斗。いつか、必ず……」 その瞬間、俺は涙を抑えきれなくなった。頬を伝う涙が、彼女の手にぽつりと落ちる。それでも、俺は笑っていた。彼女と過ごした全ての時間が、心に強く刻まれているからだ。 「また、会おうな……絶対に」 俺は彼女に向かって強く頷いた。彼女はそれを見て、安心したように静かに目を閉じた。 部屋の中は、再び静寂に包まれた。
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