1人が本棚に入れています
本棚に追加
「そのくらいにしときなよ、”悠斗”」
「ん? おぉ、”悠汰”じゃんか。生徒会の会議は終わったのか?」
僕に呼ばれて振り返った片割れの頬に血が付いている。おそらく返り血だろう。
楽しそうな悪い笑みを浮かべていた”悠斗”は、ネクタイを緩めブレザーの前ボタンをあけ、スラックスからシャツを出している。つまりは盛大に制服を着崩している。
ここに風紀委員がいれば問答無用で雷が落ちるだろう。
そんな”悠斗”の足元には、顔を痣だらけにして伸びているうちの生徒たち。”悠斗”までと言わずとも、そこそこ素行不良な面々が転がっていた。
「終わった。今は副会長が片づけをしてくれてるよ」
「はぁ~。真面目なことで」
ため息を吐いた”悠斗”は、ワックスで上げていた髪に指を入れ、くしゃくしゃとセットを崩した。
その顔はさっきまでの喧嘩が楽しいというような笑みはない。
「こら”悠斗”。まだ外だ」
「そうだった。うっかりうっかり」
僕の指摘に、”悠斗”は笑みを浮かべて髪を上げた。
「帰れるんだったら帰ろーぜぇー」
「一緒には無理だよ」
「わぁかってるって。ちゃんと距離開けて歩くからさぁー」
僕の肩に腕を回した”悠斗”の頬に着いた血を、ブレザーのポケットから出したハンカチで拭ってやる。
「荷物取ってくるから。今日は先を歩いてなよ」
「はーい。って、こいつらどうしよ」
「……忘れてたね。あー、先生を呼んでくるよ。あとは先生に押し付け……こほん。任せよう」
「ん。じゃー早く追いかけてきてな」
「あぁ」
花壇の隅に落ちていた鞄を拾い上げ軽く土を払った”悠斗”は、無邪気な笑みで僕に手を振って門の方へ歩いて行った。
最初のコメントを投稿しよう!