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化粧を落とした素顔は、いつも見ている派手な化粧をまとった顔よりずっと幼いし、長い髪もショートカットになっている。でも、確かにそこに立っているのは、茉莉花だった。
紘一は驚いてその場に凍りついた。すると茉莉花は彼を引きずるように、腕を組んだまま駅の方へと歩きはじめた。
「ごめんね。お客だと思うんだけど、ストーカーみたいになってて。」
舞台に上がっているときの、一種神々しいような迫力は完全に鳴りを潜め、今ここで口を開く茉莉花は、ごく普通の、気さくな女といった雰囲気だった。紘一はその空気感に、いささか落ち着きを取り戻し、なんとか冷静さを取り戻した足取りで彼女の隣を歩いた。
「なんで、俺のこと、」
知ってるの、と、訊きたかった。
だって紘一は、茉莉花の舞台に通ってはいるものの、大勢いる客の内の一人だし、その上いつも、舞台から離れたカウンターで、半分隠れるみたいにしながら舞台を見ている。茉莉花に顔を覚えられるようななにかが自分にあるとは思えなかった。
すると茉莉花は紘一を見上げてちょっと笑い、あんな目で見られてればね、と言った。
「あんな目で見られてればね、すぐ分かるわよ。」
あんな目、というのがどんな目を指すのか、紘一には分からなかった。自分がどんな目をして茉莉花の舞台を、彼女の踊りと裸体を、見つめていたかなんて。
紘一が口ごもっていると、茉莉花は軽く声を立てて笑った。
「以外と照れ屋なのね。」
以外、という感想が、どんな印象から出たものなのか、やっぱりわからない紘一は、なんだか恥ずかしくなり、黙って自分の靴のつま先あたりに視線を落とした。なんだか、自分の罪が弾劾されているような気分だった。今は黒いワンピースに覆われている彼女の身体の細部に至るまで、思い出そうと思えば容易く思い出せる。それがどうしようもない罪に思えた。
「今晩泊めてよ。行くとこないの。」
そんな紘一の様子に構うことなく、あっけらかんと茉莉花が言った。
「お客が家突き止めちゃってさ、帰るに帰れないのよ。ね、一日だけ。良いでしょ?」
なにもかもが、現実とは思われなかった。ここで自分の腕を掴んでいる女があの茉莉花だとも、その茉莉花に家に泊めろと迫られているとも。アルファルトを踏みしめている足取りさえ、ふわふわと頼りなく感じられた。
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