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母の母、要するに私の祖母が亡くなったとき、母は失意の底に落ちた。
友達のように仲良しな親子だったそうだ。
そんな母を懸命に励ましたのが父で、それがきっかけで結婚した。
ときに私が母を取られてる気分になるほど、父は母を愛していた。
母が亡くなってから父は食事をほとんど口にしない。
心療内科に行くようすすめても仏壇から動かない。
お風呂にも入りたがらない。
「身体に染み込んだ奈津美の匂いが消えてしまうから嫌だ」なんて
言ったときは、叔父がバスルームまで引きずって服を脱がせて
無理矢理に身体を洗った。
「圭吾は、とにかく入院させるしかないよ。
そして時間が経てば解決できる部分もあるかもしれない。
だけど真保ちゃんには高校進学も将来もあるんだ。
うちで面倒をみるよ」
叔父が、そう言ってくれた。
でも私は父を中途半端に見捨てたくなかった。
「父の入院も、私の引っ越しも、もう少し待ってください」
と、告げた。
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