雨にまつわる子守唄

9/18
前へ
/18ページ
次へ
父が再び歌い始めた。 叫んで阻止したいけれど、四時という時間帯に近所迷惑を気にして 大きな行動が取れなかった。 私は父の腕を引っ張ってベランダから部屋へと引き戻そうとした。 元から細い父は食事をしなくなって更に痩せていたが、どんなに 力を入れても動かせなかった。 父は歌い続ける。 言い知れぬ不安に駆られているうちにも、雨が、やまない。 「ほら、聞こえてくる」 父が歌をやめて言った。 ぴしゃり、ぴしゃり、ぴしゃり......。 「うそでしょ......」 雨上がりの雫とは違う一定の音が窓の外から近づいてくる。 「奈津美の履いていたフラットな靴の足音だよ」 「そんなわけないでしょ!ここは七階なのよ!」 だけど音は、どんどん大きくなってくる。 父は再び歌い出した。 そして......。 「圭吾さん、真保......ただいま」 母の声が、聞こえてきた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加