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俺の名前は坂東昴
俺のバイトは、まぁ簡単に言えば神様がたのお手伝いってやつだ。
突然だが俺は今、受験の神と名高い亀戸天神社に来ている。
また急に呼び出されたからだ。
神というのはどの神も共通して勝手気まぐれ、そして極度のめんどくさがりだ。
それはもう人間以上に。
「はぁ〜っ!もぉ今さぁ受験期だからホンット忙しくてなぁ〜っ
ほら見ろよ。続々来るだろ?」
制服を着た明らかに中学生の男子が、御守りを両手で挟みながら必死に祈っている。
その近くには、学生の親御さんと思わしき人が手を合わせてブツブツ何かを唱えていたり、高校生の男女が数名、緊張した面持ちでそわそわしていたり、御守りを何個も買っている人もいる。
「こないだっからひっきりなしなんだ。
ったく人間ってのは都合がいい時だけ、なんでもかんでも神頼みすりゃいいと思ってやがんの。」
それはまぁ確かに……
と思いつつも、俺はあからさまに面倒臭い顔をする。
なぜならこの受験期シーズンの仕事の量はハンパじゃないし、俺は毎年気が狂いそうなほどヘトヘトになり2日は寝込む。
しかも、今回に関しては今まで以上に断りたい重大な理由がある。
「あのさ、今年は俺も受験生なんだけど。」
ガーンという効果音が鳴ったような気がするほど、驚愕した顔をしている目の前の神様、菅原さん。
「そ、そ、それは……嘘、だよなぁ……?」
「は?マジだよ。てゆーかさ、 俺、3年前の高校受験の時言ったよな?次は3年後だって。だから今回は超重大なイベント、大学受験なの。わかるー?」
「ありゃ…そうだったかな……」
「ったく、それでもアンタ本当に受験の神様かよ。
何百年やってんだよフツー分かるだろそのくらい!!」
「わ、わからんし〜そんなことぉ〜」
おそらく日本一有名な受験の神様……菅原道草さん。
毎年全国からどれだけの人間がこの人を信じてここへ合格祈願に来ることか。
中身がこんなテキトーな神様だと知ったら衝撃だろう。
「てことだからとにかく俺は3年前より忙しいの。つか、人間最大の受験ってのは基本大学受験だから。
そもそもアンタいつも暇そうなんだからさぁ、自分でチャチャッと、」
「よしわかった!お前の大学合格させてやる!!」
「……何言って……。俺はそーゆーズルみたいのは好きじゃない」
「もちろん毎年の如く、受験期ボーナス弾むよっ!
いやいや助かるよアリガトね!んじゃ、よろしく〜」
「ちょ、ちょっとおいっ!菅原さんっ!」
文字通り、シュッと雲隠れしてしまった。
おいおいおいおいマジかよ……嘘だろ?
あれでもホントに学業の神様なのかよ……!
「くそ……」
「神様にクソなんて言っちゃダメだろ昴。」
「だっっって、デン!」
「まぁいーじゃねぇか。お前これで合格確定なんだからよ。ずっと狙ってたK大学だろ?」
いつもののんびりした態度でそう宥めてくるのは、神の使い狐の、殿月之御魂狐大神……いや長すぎ長すぎ。
てか基本的に神様の本名的なものってめちゃめちゃ長いんだけどさ。マジなんで?
まぁとにかく、長すぎて呼びずらすぎるので俺は最初の字だけとってデンと呼んでいる。
ベタだがそれしか思いつかなかったし本人もその響きを気に入っているらしいからデンで定着している。
「とりま行くぞ」
いつもはこんなふうに小さく可愛らしい子狐の姿だが……
ボワッッ
「ほら乗れ。仕事だ。」
こんなふうにデッッケェ本来の神狐の姿に変身する。
それはさながら先程のめんどくさがりな神よりも神々しい神の姿だ。
「はぁ〜?おいマジで行くのかよ…」
ちなみに狐がお稲荷さんが好きなんてのは嘘だ。
こいつはフツーに人間の好むオムライスやパフェ、スパゲティやハンバーグといった洋食や、はたまたミルフィーユやガトーショコラといったシャレたものまで好物だ。
言ってしまえば、いわゆる雑食である。
昔そのことをつっこんだ時、
" あ?イナリ?誰が言い出したんだンなこと。
まさか!!だから人間はしょっちゅうイナリばっかお供えしてきやがるのか!!狐は全員ソレに飽きてんだぞ!
よし!今後お前が、狐はパフェが好きとかビーフシチューが好きとかしっかりウワサを流しとけ!いいな!?"
と不機嫌に返され、返答に困ったことがある。
そんなものお供えできるわけないだろ。
だいたいお前、俺と出会ってから舌が肥えすぎなんだよ。
あと狐の大神のくせに口悪すぎ。
まぁ今まで実にいっろんな神様に出会ってきたけど、我々の想像の遥か上、斜め、縦、横いく神様ばっかだ。
もっと口悪いのもいるし、寒いダジャレみたいのばっか言うのもいるし、お喋りすぎるのもいれば常に酔っ払ってる大酒飲みなのもいるし……
え?
なんで人間の俺が「神様のバイト」してるかって?
まぁいろいろあったんだ。
誰も聞いてくんないから聞いてよ。
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