第3章 優しい人、不思議な気持ち

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「魚が食いたいなら、海のほうに行くのが確実だな」 「そうだよね。僕は海を見たことがないから、ちょっと気になるかも」  実家で暮らしていた頃も、師匠と暮らし始めてからも。  僕は海を見たことがない。海と見間違えそうなほどに大きな湖は見たことはあるけどね。 「そうか」 「うん」  僕たちは並んで他愛もない会話をする。  けど、会話の裏側には互いを探るような思惑が隠されていたんだと思う。  互いが不快にならない距離を探している。僕はこの会話をそう感じてしまった。 「美味しいごはん、楽しみだなぁ」  僕が言葉をボソッと零す。隣を歩いていたキリアンが、声を上げて笑った。  かと思えば、「そうだな」と言葉をくれた。彼の声はどこか温かくて、優しいものだと僕は感じた。
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