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「――で、ありまして。最近魔族、魔物による被害が多数報告されております。そのため、魔物を倒すという形を取らせていただこうと」
クレメンスさんがそう言うと、何処からか「ふわぁ」というあくびが聞こえてきた。
……僕の顔から血の気が引く。もしかして、さっきの人が……?
そう思った僕がそちらに視線を向ける。でも、彼は退屈そうな表情こそしているものの、今はあくびをしていないようだった。
「……なに?」
彼が目を細めて僕を見つめる。そして、小声でそう問いかけてきた。
だから、僕は慌てて首を横に振る。その吊り上がった目が怖い。目自体は、黒曜石みたいできれいなのに……。
「い、いえ、なにも……」
慌てて首を横に振って、僕は彼から顔を逸らした。
そうしていれば、玉座のほうから「わかりにくい」という端的な言葉が聞こえてくる。
「お前の説明はまどろっこしい。長々としていて、回りくどい。もう聞き飽きた」
「……ですが、陛下」
「若者の時間を貰っているのだ。出来る限り素早く済ませるのが道理だろう」
陛下がそうおっしゃって、またあくびをされる。……先ほどのあくびは、陛下のものだったんだって理解した。
「この男が悪いな。とりあえず、被害が多発しているから魔物を。場合によっては魔族を倒してほしいということだ。万が一変更などがあれば、そのたびに遣いを出そう」
「……かしこまりました」
僕がなにも反応できない中、唯一真剣にお話を聞いていた彼が返事をする。
「さて、この後は互いに自己紹介でもしてくれ。応接室を開けている。そこで少し話をしてきなさい」
そうおっしゃった陛下は、強引に場を解散させてくださった。
心の底から、ほっとした。
ただ唯一、ちょっとほっとできないのは。
(絶対に目を付けられたよ……)
隣から感じる鋭い視線。……先ほど、軽く言葉を交わした黒曜石のような目の彼だ。
ただでさえ、彼のことがちょっと怖く感じているのに。僕はもう、泣きたくてたまらなかった。
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