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彼はサンドイッチに手を伸ばして、乱暴な仕草でかじる。
「必要なのは名前くらいだろう。誰もお前の趣味嗜好性癖なんて興味ない」
素っ気ない言葉だったけれど、多分気を遣ってくれたんだと思う。
それがわかって、僕は口元を緩めた。……性癖は、余計だったけれど。
「はい。僕はジェリー・デルリーンと言います。魔法使いです」
一応必要かなって思って、職業を付け足す。すると、エカードさんが「あぁ」と声を上げていた。
「俺は剣士だよ。で、こっちのキリアンが神託に選ばれた勇者……と、いうことになってる」
「本当に一応だな。……こんな面倒なことを押し付けられて、こっちは散々だ」
キリアンさんは次にティーカップを口に運んだ。いい食べっぷりと飲みっぷりだと思った。
と、あぁ、そうだ。サンドイッチ、僕も食べたい。
(このままだとキリアンさんに食べつくされてしまう……)
そんなのは絶対にごめんだ。
その一心で僕は手を伸ばして、サンドイッチを取った。トマトと厚焼き玉子が挟んである、色彩的にもきれいなサンドイッチ。
両手で持って、かじる。……美味しい。
(パンが違うの……かな。それに、厚焼き玉子すっごく美味しい。こんなにも美味しいの、初めて食べた……!)
正直、師匠と二人暮らしだとあんまり美味しいものは食べられない。いや、それだとちょっと語弊があるか。
師匠は何事にも無頓着なのだ。それゆえに、食事に求めるものは栄養的価値。
そのため、師匠は味よりも栄養面での食事を好んだ。食事係は僕だったんだけれど、別に作ることが面倒だったこと。そもそも僕自体が料理が得意じゃないことから、食事は薄味のさっぱりとしたものばっかりだった。
(美味しいものを食べると、こんなにもわくわくするんだ……! 今後は、もうちょっと味にもこだわりたいな)
自然とそう思って、一口、もう一口とサンドイッチを頬張る。
美味しくて口元に笑みが浮かんで、僕はハムハムと食事を続けた。
……しかし、しばらくして。なんか音がしないなぁって思って、視線を上げる。
そこではキリアンさんとエカードさんが、僕を見て固まっていた。……え、僕、なにか変なことでもしたんだろうか?
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