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「――っつ」
僕の真っ白なローブの上に広がる、紅茶。それは茶色のシミを作っていった。
「おい!」
「――え?」
いきなり大きな声で言葉をかけられて、僕は驚く。そして、掴まれた手首。
慌ててそちらに視線を向けると、そこには心配そうな表情を浮かべたキリアンさんがいた。
「火傷、してないか?」
キリアンさんが、僕にそう問いかけてくる。……え、え、これって、どういう?
「……キリアン、落ち着いて。ジェリーの落ち着きようからして、火傷はしていないはずだ」
ソファーから立ち上がったエカードさんが、絨毯の上に転がるティーカップを手に取る。カップに傷はなさそうで、ほっと一安心。
「ジェリー、何処か痛いところとか、あるか?」
「え、えぇっと……」
エカードさんに優しく尋ねられて、僕はゆるゆると首を横に振る。
そうすれば、キリアンさんが僕の手首を離してくれた。それから、彼はバツが悪そうに顔を背ける。
「……悪いな、キリアンはちょっと訳ありでな」
僕のローブに広がる紅茶のシミ。それをどこからか取り出したタオルで拭きつつ、エカードさんが笑ってそう言う。
「ま、あんまり気にするな。……というかこれ、落ちるのか?」
「……多分」
露骨に話題を変えられたけれど、今更蒸し返すこともできない。
僕は本当に小心者で臆病者だ。
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