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それを再認識して、紅茶のシミを見つめた。……帰ったら、洗わなくちゃ。
「落ちなくても、その。師匠にもらった新しいものがあるから、大丈夫……です」
このローブは五年くらい使っている。ただ、師匠は年に一度新しいものをくれるのだ。
だから、クローゼットの中にはまだ新品のローブがたくさんあった。
デザインは一つ一つちょっと違うけれど、問題ないとは思う。
(これはお気に入りだったけれど、そろそろ新しいものを出すべきだったしね)
ポジティブに考えれば、これはその転機をくれた出来事ということになる……のかな。
「……そうか」
エカードさんがほっと胸を撫でおろしたのがわかった。
「それにしても、このローブはとてもいい素材を使っているな。モンスターから採取した毛皮で作られているみたいだが」
興味深そうに僕のローブを触って、エカードさんがブツブツとなにかを呟いている。
「……すみませんが、それに関しては僕、よく知らないです。これ、師匠が何処かに作成を頼んでいるっていうものなので」
「へぇ、ってことはオーダーメイド?」
「そう、みたいです」
師匠のモットーに『魔法使いならば道具や衣服にこだわるべきだ』というものがある。
『かといって、なにもかもが良ければいいというものではない。自分の実力にぴったりと合うものが一番だ。そういう点で、キミにはこのローブがよく合う』
弟子入りしたばかりの頃。師匠はそう言っていた。……あぁ、懐かしいなって。
「ふぅん。……多分これ、王都にある有名な仕立て屋が仕立てたものだな」
「……そう、なんですか?」
「あぁ、ジェリーの師匠が何者かは知らないけれど、相当いろんな知識があることはわかる」
……僕から見た師匠は、ただの魔法オタクだ。けど、他の人から見たら師匠は全然違う人物に見えるんだろう。
(まるで、サイコロみたいだ)
それぞれの面に『別の顔』がある。師匠はそういう――得体のしれない存在、なのかもしれない。
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