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そんな風に時間を過ごして、夕方にはあの場は一旦解散ということになった。
旅に出るのは二週間後ということで、僕は一旦辺境にある住処に戻ることに。もちろん、移動手段は転移魔法だ。
どうやら師匠は『用事が終わったらジェリーをここまで送ってほしい』と頼んでいたらしい。……それも、ほかでもない国王陛下に。
それを聞いたとき、僕は卒倒しそうだった。……まぁ、陛下が笑っていたので問題ないといえば、問題ないのかもだけれど……。
「では、アクセルの奴によろしくな」
陛下は僕に向かって軽く手を挙げて、そう言葉をくださった。
……正直、師匠にこのお言葉を伝えても、ろくな反応をしてくれないと思う。うん。
王城のほうで用意してもらって転移魔法――いわゆるワープホール――をくぐる。すると、見知った一軒家の前に出た。
僕は「よっと」と声を上げて地面に足をつける。ワープホールは僕が出たことを確認すると、すぐに跡形もなく消えてしまった。
「……ただいま、帰りました」
なんだか随分と久々に感じる帰宅に、僕はびくびくとしていた。
いや、一日も出ていないし、なんなら半日くらいしか出ていない。それでも、怖かったのだから仕方がない。
「あぁ、戻って来たのか」
師匠は自室にいた。ぷわんと香ってくるなんとも言葉に表せないにおいに、僕は自然と顔をしかめる。
「師匠、なにしてるんですか……?」
家の窓をすべて開け放ちたい衝動にかられつつつ、僕は小首をかしげて師匠に問いかける。
そうすれば、師匠は手に持っていた分厚い本を閉じた。
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