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「ふむ、まぁ、おおむね予想通りと言うべきかな」
僕の話を大体聞いた師匠は、顎に手を当ててそう呟いた。
その姿は誰もが見惚れそうなほどに美しい。師匠はその魔法の腕もさながら、容姿もとても素晴らしいのだ。
白銀色のさらりとした短い髪。そして、その目は宝石のアメシストをイメージさせるほどに美しい紫。
少し目が伏せられるだけで、その色気はすさまじいものになる。王家お抱えの魔法使いだった頃は、ファンもいたとか、なんとか……。
(って、そんなの今の師匠には関係ないよ)
師匠が引退した理由を深くは知らない。彼は端的に「権力争いに疲れた」と言っていたけれど、それ以外に理由があるような気がしてならない。だって、師匠は権力争いになんてそもそも興味がないだろうし……。
「しかし、よかったじゃないか。キミの同行者は、それなりの力を持っているようだ」
ティーカップを口に運びつつ、師匠がそう言葉を発した。
……それなりの力って。
「多分、一番実力がないのは僕だと思います。勇者の人も、剣士の人も。すごく、強そうだった」
正直、僕が上から目線になれる要素はない。下からぺこぺことするのが精いっぱいだ。
もちろん、師匠ならば違うんだろうなぁ……とは、思うけれど。
「キミの自己肯定感は一体どうなっているんだ。全く、嘆かわしい」
「……地層の奥深くにめり込んでます」
本日二回目のこのセリフに、師匠はため息をつくだけだった。
だけど、少しして顔を上げる。彼の目が僕を射貫く。
「言っておくが、私は誰彼構わず弟子を取るわけではないんだよ」
突然真剣な面持ちになって、師匠がそう言う。
言葉の意味がわからなくて、僕はぽかんとした。
「才能がある。そう判断した者しか、弟子にするつもりはなかったんだ」
「……そうなのですか?」
「そうだろう。そうじゃないと、私ほどの魔法使いが今まで弟子を取らなかったことの説明がつかない」
……てっきり、師匠の変人っぷりに疲弊して弟子志望者が出ていくのだと思っていた。
「キミは今、かなり失礼なことを考えているだろうね。……ま、それもあるんだろう。私は他者との共同生活なんてするくらいならば、死んだほうがマシだと思っていたからね」
何処か懐かしむようにそう言って、師匠が息を吐いた。伏せられた目は、紅茶の水面を見つめている。
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