第1章 出逢う

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「……師匠と弟子とは、血のつながった家族ほどのきずなを持つものだ」 「そうで、したね……」  僕が師匠に弟子入りを志願したとき。確かに師匠はそう教えてくれた。  その言葉を聞いた僕は、弟子入りをためらった。だって、血のつながった家族にいい思い出がなかったから。 「……こんなことを言ってはなんだが、私の家族も大層困ったものでね。言い争いの絶えない家だったんだ」  ぽつりと師匠がそう零す。師匠の身の上話を聞くのは、初めてだった。彼は、自分のことを話したがらないから。 「特に私は後妻の息子で、年の離れた異母兄と異母姉がいた。……異母姉は優しかったが、異母兄は私を憎悪していたさ」  なんてことない風にそう語る師匠は、その頃のことを全部捨てているみたいだった。  まるで、他人の思い出を語るような口調にも聞こえる。 「それもこれも、全部父が私を優遇するのが原因だった。異母兄にとって、私というのは父からの愛情や期待をすべて奪った、忌々しい存在だったんだろうね」 「そんな、ことが……」 「ま、母はそれなりに優しかったし、異母姉も私を気にかけてくれた。だから、根っから悪い思い出……というわけではないんだろう」  そう呟いた師匠が、ティーカップをソーサラーの上に戻す。
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