第3章 優しい人、不思議な気持ち

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「とにかく行こうよ。……あ、どうせだし、もう夕飯を食べて戻ろうか」 「……あぁ」  僕は場を無理やり明るくするように声を弾ませる。  キリアンはなにか言いたそうだったけど、うなずいてくれる。多分、今は僕に深入りするべきではないとわかってくれたんだろう。 (キリアンにも事情がある。僕にも事情がある。互いに不快にならない距離感を掴まなくちゃ)  万が一、その一線を越えてしまったら。僕らは友人のままじゃいられないような気がしていた。  僕とキリアンが友人なのかは、ちょっと疑問だけど。 「ここら辺は、なにが美味しいんだろうね」 「そうだな。この近くに大規模な農地があるということから、野菜が美味いらしい。あと、畜産業もやってるから、肉類だな」 「へぇ、キリアンは物知りなんだね」  野菜とお肉、か。 「代わりに魚類はなかなか手に入らないらしい」 「海は遠いからわかるけど、川魚は?」 「ここら辺の川にはろくに食える魚がいないらしいぞ。食えたとしても不味いらしい」  ふぅん、いろいろな事情があるんだねぇ。
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