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男性――陛下の前に跪く。ここら辺の礼儀作法は師匠から教わった。……上手に出来ているかは、わからないけれど。
「ジェリー・デルリーンと申します。本日はお会いできて光栄でございます」
震える声でそう告げれば、陛下は「そこまでかしこまらなくていい」とおっしゃってくれる。それから、顔を上げて立ち上がるようにと指示された。
「全く、あの男の自由奔放さにも困ったものだな。……しかし、弟子がいるとは知らなかった。クレメンス、そういう話は聞いたことがあるか?」
「いえ、一言も聞いておりません」
いつの間にか陛下のすぐそばに移動していたクレメンスさんが、肩をすくめてそう言う。
……この人の言葉、やっぱり何処か棘がある気がしてしまう。師匠が嫌いなんだろうか。
「さて、全員揃ったところで。今回の任務についての説明をしよう」
陛下が再度椅子に腰かけられて、脚を組まれた。そのまま頬杖を突かれると、視線だけでクレメンスさんに言葉を促す。
「かしこまりました、陛下。今回の任務に就きましては――」
クレメンスさんが淡々と言葉で説明をくれる。
……しかし、一つ言いたい。
(言葉だけだとわからないところも、多いんだけど……)
せめて小冊子みたいなものが欲しい。いや、旅行とかじゃないんだから、ないのかな……。
隣をちらりと窺うと、先ほどにっこりと笑いかけてくれた人は真剣に聞いている。でも、もう一人の人は退屈そうにあくびをしていた。
……陛下の前なのに、いいのかな。
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