おかえりの部屋

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「僕、僕の好きなもの、なんだっけ?」 床に座り込んで考え込んだ。 「えっとね、理恵の笑顔、テレビドラマを観てるときの真剣な顔、 長い足、ビックリしたときの丸い目、 良二の心配性なとこ、良二とカラオケに行くと楽しいってこと、 大学の新緑、木陰のベンチ、学食のカレー、教授の変なくしゃみ、 実家で飼ってる猫のあくび、父さんとの囲碁、母さんの鼻歌、 おばあちゃんの寝息、自転車で感じる風、雲の切れ間の光、 ツタだらけの廃墟、卵を半熟に作れたオムライス、大好きなアニメ、 それから、それから......帰宅したときの、おかえりの声に、ただいま」 言いながら涙があふれてきた。 「康介、いっぱいだね!」 晴日が笑った。 良二が僕のそばまできて、しゃがんだ。 「康介、俺のことで好きなとこあるんだな。ホッとしたよ。 もう友達に戻れないかもって思ったりした」 「ううん、良二、ごめん、本当にごめんな。言い過ぎた。 僕は、僕は、理恵を好きだった僕を、乗り越えたい」 良二が背中を軽く叩いて、なだめてくれた。 「康介、思い出した、たくさん、たくさん、思い出したよ。 晩ご飯以外にも、たくさんあるよ、あのね、あのね」 晴日は話してくれた。 たくさん、たくさん。 話しながら、強い光に包まれて消えていった。 それから僕と良二は夜遅くまで話し込んだ。 たまっていたものを吐き出させてもらった。
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