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「康介(こうすけ)にだけ、面倒かけて申し訳ないと思ってる」
自室で部屋の片づけをしていたら、理恵(りえ)が開け放したままの
ドアに立っていた。
「あぁ、ううん、そんなことないよ。
引っ越したら大学が近くなるから便利だったりとか」
円満とは言えないが、互いが少しは冷静になれていた。
それでも、僕たちはもう、やり直しはできない。
別れる理由は理恵の浮気、いや、僕よりもっと好きな相手ができたから。
こればっかりは心の動きとして、どうにもならないと納得している。
だから僕が出ていくことにした。
この2LDKの部屋は、理恵が新しい彼氏と住めばいいと思ったからだ。
もちろん、心に痛みが無いわけじゃない。
理恵の心が離れたとはいえ、僕はまだ理恵が好きだ。
いま見ているシャギーの跳ね具合いから大きな瞳と細い足首まで
全部が愛しい。
この気持ちにしても、早く捨て去る為の引っ越しだった。
「康介って、いい人すぎるよ」
理恵のシャギーが垂れ下がった。
だったら好きでいて欲しかったよ。
という言葉を、衣服を入れていく段ボールの中へと仕舞い込んだ。
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