1人が本棚に入れています
本棚に追加
「他に好きな人ができたの」
二人で暮らす部屋のリビングで打ち明けられた。
洗面所には二つの歯ブラシ、台所には揃いのマグカップ。
一緒に選んだカーテン、腕をからめた写真が飾られている。
「新しく始めたバイト先の人でね、すごく優しくて。
失敗ばかりのあたしを励ましてくれて。笑顔が素敵で。
同じ学部だから、課題を手伝ってもらえたりもして......」
僕は優しくない?僕の笑顔は素敵じゃない?僕は頼りない?
「心が、心が......どんどん、引き付けられていくの」
言うにも辛い声で理恵が続けていく。
こんなテレビドラマみたいなシチュエーションが自分にくるとは
夢にも思っていなかった。
だけど、そういうドラマを観たときに思ったのだ。
『好き』は、どうにもならないと。
ドラマの中では『絶対に別れない』と、言い張る相手のせいで修羅場に
発展していった。
なんであきらめきれないんだろう?仕方ないのに。
僕は、そう思ったから、あきらめた。
「二股かけて同時進行できるほど理恵は器用じゃないよね。
ちゃんと言えたの、スゴイと思うよ。もう悩まないで欲しい」
と、僕から別れることを切り出した。
「ごめんなさい、康介の優しさに甘えて、ごめんなさい!」
理恵が泣き出した。
最初のコメントを投稿しよう!