おかえりの部屋

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「他に好きな人ができたの」 二人で暮らす部屋のリビングで打ち明けられた。 洗面所には二つの歯ブラシ、台所には揃いのマグカップ。 一緒に選んだカーテン、腕をからめた写真が飾られている。 「新しく始めたバイト先の人でね、すごく優しくて。 失敗ばかりのあたしを励ましてくれて。笑顔が素敵で。 同じ学部だから、課題を手伝ってもらえたりもして......」 僕は優しくない?僕の笑顔は素敵じゃない?僕は頼りない? 「心が、心が......どんどん、引き付けられていくの」 言うにも辛い声で理恵が続けていく。 こんなテレビドラマみたいなシチュエーションが自分にくるとは 夢にも思っていなかった。 だけど、そういうドラマを観たときに思ったのだ。 『好き』は、どうにもならないと。 ドラマの中では『絶対に別れない』と、言い張る相手のせいで修羅場に 発展していった。 なんであきらめきれないんだろう?仕方ないのに。 僕は、そう思ったから、あきらめた。 「二股かけて同時進行できるほど理恵は器用じゃないよね。 ちゃんと言えたの、スゴイと思うよ。もう悩まないで欲しい」 と、僕から別れることを切り出した。 「ごめんなさい、康介の優しさに甘えて、ごめんなさい!」 理恵が泣き出した。
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