雪白王子と雪花姫

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 これでいい。雪花は命を助けられたことに感謝するだろう。そう思ったのだが。 「逃げろですって? こんな森の中に放り出されて一体どこへ行けというの? 自分の手を汚さずとも飢えて死ぬか森の獣に食われることを期待しているのかしら」  冷ややかな目で言われ、雪白は慌てる。 「まさか、そんな訳がないだろう。この森には小人達が棲んでいると聞くから、そこを頼ればいい。それが駄目でも国の外に出て外国の村や町を訪ねればなんとかなるだろう。雪花のような幼く可愛らしい娘なら皆可哀想に思って助けてくれるさ」 「なんの後ろ盾もない娘が一体どんな扱いを受けるかしら。召使いとしてこき使われるのが精々、慰み者にされるかもしれないわ。お兄様は私にそのように生きていけとおっしゃるのね」 「言ってないじゃないか、そんなことは」  折角情けをかけてやったというのに、こちらを責めるような物言いに雪白は苛立ちを募らせた。 「言ってないわね、そこまで考えを巡らせていなかったのだから。城を追い出された無力な姫がどうなるかなんて想像しない方が、妹を見逃してやった心優しい兄でいられるもの」  無垢で可愛らしい姫だと思っていたのに、こんな小賢しいことをまくし立てるような女だったとは。自分の命を握っている相手にこのような生意気な口をきくとは、なんて愚かな女なのだろう。 「……それじゃあお前は、今ここで殺された方が良いというのかい」  雪白は剣の柄に手をかけてみせた。無論本当に斬り捨てようというのではない。ただ自分の立場を思い出させてやろうとしたまでだ。  そのつもりだったのだが。  いきなり雪花が襲いかかってきて、驚く間に衝撃で倒れ込んだところを馬乗りに乗られた。  勢いよくスカートをまくり上げたかと思うと何かを取り出して目の前に突き付けてきた。  ナイフだ。 「ねえお兄様、まさか返り討ちにあうとは思っていなかった? 女に組み伏せられるはずがないと?」  先程までの鈴を転がすような声ではない、低い声音が雪花の口から出てきた。  というよりも、その声は雪白にそっくりだった。
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