雪白王子と雪花姫

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 王城にて、扉の向こうから現れた少年を見た王妃は目を細めた。 「ただいま戻りました、お母様」 「おかえりなさい……雪白王子」 「雪花姫は顔に怪我を負い、美貌を失ったことで心を病み、部屋へ閉じ籠るようになりました。これでは縁談が来ることもないでしょう。……そうなればもう、殺す理由もありませんよね?」 「構いませんよ。貴方はあの子を憎んでいると思っていたので意外ですが」 「別に憎んではいません。彼は何も知らなかっただけですから。憎いのはむしろ……」  言葉を途切れさせた少年に王妃は微笑する。 「憎いでしょうね、この母が。けれど双子は凶兆とされています。そのままの貴方達を認める訳にはいかなかったのです」 「双子が許されずとも兄弟として育てればよかったではありませんか。どうして私は女として育てられなければならなかったのですか」  あまり腹の内を見せてはいけない。そう思いながらも雪花として生きてきた少年は言わずにいられなかった。 「王子が二人となれば、初めに決めた長男と次男の差は覆らないでしょう。でも生まれた時点ではどちらが優秀かは分からない。その状態で後継者を決めるのは不平等ではありませんか。事実、妹として育てた貴方の方が王に値する器だった。そこで男女を入れ替えてしまえば、後継者争いも起こさずにすむというもの」  艶然とする王妃に悪びれる様子は一切ない。  一体自分がどんな扱いを受け、どんな思いをしてきたか分かっているのか。そう怒りがわいたところで、いや、それは王妃が誰よりもよく分かっているだろうと少年は思い直す。  この国で女は王になれない。  そんな国で女がどれだけ(あなど)られ、軽んじられ、政治に関心を抱くと疎まれるか。暗愚な王に進言するにも一々こびへつらい、機嫌を損なわぬように気をつかわねばならない。そのように心を砕いても、王をたぶらかして自分の思いのままにしようとする悪女として忌み嫌われる。  雪白王子に成り代わった自分と違い、王妃にはそれから逃れる術が決してないのだ。そう思うと哀れではある。  だからといって自分に強いてきたことを許せる気にもなれないが、今ここで王妃に歯向かっても勝ち目はない。 「……それでは私はこれで。雪花姫の様子を見てまいります」
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