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次の日、バイトから帰ると押し入れを開ける。そこには昨日買ったはずのギターがなかった。
「あれ、なんでないんだろう……」
そう呟いたと同時に後ろから「ねぇ、葉子」と母の声がする。振り返るとギターを手にした母の姿があった。その隣には涙目の妹たち。
「これは何?うちにはこんなもの買う余裕なんてないのよ」
母は怒ると手が付けられない。子供に向けるようなものではない目で睨みつける母に「そ、それは。貯めたお金で買ったの……だから、家のお金じゃないよ」と答える。すると母は不敵な笑みを浮かべ、ギターを持ったまま外に出る。そして、ギターを地面に叩きつけた。
「やめてっ!」
母の腕を掴むも振り解かれて、ギターの壊れる音が辺りに響く。気が済むまで地面にギターを叩きつけた母は座り込んだ私の頬までも叩き、「最近なんかしてると思ってたけど、馬鹿なことするんじゃないよ。学校に行かせてやる代わりにバイトした金を家に渡す約束を忘れるなよ」と言った。その後すぐに、母は夜の仕事へ出て行った。原型をとどめないほどボロボロになったギターを手に持って家に入ると、妹たちが泣きついて謝る。
「ごめんね。ごめんね、葉子お姉ちゃん」
好奇心旺盛な妹たちが私のいない時を見計らって押し入れの中からギターを取り出したのだろう。そこを母に見つかってしまった。壊れたギターと一緒に私の心も壊れそうだった。幼い、あの頃みたいに……。
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