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好き→嫌い
子供の頃から、音楽が……歌うことが大好きだった。でも、ピアノを習うこともギターを習うこともできない。そんな金銭的に余裕がない家庭で育った。
八人家族の四番目に生まれた私、山野葉子。良く言えば手のかからない大人しい子、悪く言えば居てもいなくても変わらぬ存在。酒癖が悪くギャンブル好きの父に、感情の浮き沈みが激しい母のいる最悪な家庭環境。(なんで生まれてきたんだろう)(早く大人になりたい)何度思ってきたことだろう。
優秀だと褒められるのは年が上の姉と兄で可愛がられるのは年が下の妹ふたり。別に兄妹の中が悪かったわけじゃない。むしろ、その反対で自分勝手な両親のおかげか仲は良い方だった。でも……おもちゃを買ってもらえない、凄いと褒めてもらえない、可愛いと甘やかされない、私は一番どうでもいい存在……。そんな私にも楽しめることが音楽だった。歌は声があれば歌えるし、作詞はチラシの裏を使えば書ける。お金もかからない、誰にも迷惑かけない筈なのに、それすらも奪われた。歌を歌えば……母から「うるさいっ!」と怒鳴られ、父からは「音痴のくせに歌うな」と言われる。詞を書けば……母の手でチラシをビリビリに破られてしまう。いつしか歌うことも詞を書くこともやめ、外に出て友達と遊ぶことで自分を誤魔化した。
無理やり「好き」を「嫌い」に変えた。
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