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高校生になってから、初めて誰かと歩く帰り道。戸惑いのほうが大きいけど、なんだか嬉しい。何を話したらいいんだろう、そんな風に考えていると千弦が話しかけてくれた。
「山野さん、いや葉子ちゃんだっけ?あ、私のことは千弦って呼んでね」
「う、うん」
「葉子ちゃんは音楽好き?なんか曲聴いたりする?」
「……」
一番聞かれたくない質問だった。すぐには言葉が出てこなくて、軽く深呼吸をした後に「嫌いだし、聴かないよ」と愛想笑いを浮かべる。でも、千弦には通用しなかった。
「嫌いなんて嘘でしょ?だって、いつも羨ましそうに私のギターケース見てるもん。さっき教室を出る時も見てたの知ってるよ」
バレていないと思っていた。見てると言ってもチラ見くらいのもの。千弦の言う通り、表では嫌いと言っておきながら本当は今でも音楽が大好きで歌うことも大好きで。通信制の高校にしたのも家計が苦しいからだけじゃなくて、ずっと嫌いだと自分に嘘をついて閉じ込めていた音楽を大好きだって言えるようになりたかったから。だから働いて、お金を貯めて……。目から大粒の涙が溢れ出す。久しぶりに人前で泣いた。突然泣き出す私の背中を千弦は優しくさすってくれる。そんな千弦の優しさに触れ、全てを打ち明けることにした。私の話を聞いた千弦はポケットからスマホを取り出し、真剣な目で指先を動かす。
「よし……」
そう呟いた千弦は私に「もう一回、音楽やろうよ」と微笑んだ。
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