きっかけ

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きっかけ

 その後、連絡先を交換して家に帰った。お風呂から上がりスマホを手にすると、千弦から連絡が来ていた。「明後日、学校に行く前にどこかカフェに寄らない?話したいことがあるの」といった内容で、「わかった」と私は返信をする。    当日、待ち合わせ場所のカフェで千弦と落ち合う。お互いに好きな飲み物を頼んだ後、話のスタートを切ったのは千弦からだった。  「私ね……、音楽活動してるんだけど。親からは大反対されてるの」  外を眺めながら言う千弦の表情はどこか悲しげだった。  「お父さんもお母さんも公務員で、五歳年上のお兄ちゃんは医学生で将来有望な医者の卵で。そんな家族の中で唯一、不安定な私」  私の家とは正反対で家計には困っていないし、むしろ幸せという言葉が似合う。なのに息苦しそうに話す千弦を見て、胸の奥から込み上げてくる複雑な感情。羨ましいという言葉を飲み込んで、大人しく千弦の話を聞いた。  「安定した道を進んでほしいのはわかってる。でもね、それじゃつまらなくて……。自分の好きなように、自由に生きたいの。たとえ不安定だったとしても」  「どうして、その話を私に?」  純粋な疑問だった。私には千弦の心を動かすものなんて一つもないのに。すると、千弦は「葉子ちゃんだからだよ」と優しく微笑んだ。
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