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「この間さ、葉子ちゃんの話を聞いた時に自分よりも大変な思いをしている人がいるのに、何やってんだ自分って思って。だから」
テーブルに置いてあったスマホを手に取り、少し操作すると画面を見せて「本気で音楽活動したいなら、大好きを貫きたいなら、この連絡先を追加して」と千弦は言った。だが呆れたのか、「いいや、私が勝手に追加しておく」と戸惑いのあまり固まってしまっている私の手からスマホを奪う。すぐに手元に返ってきたスマホの画面には知らない人の連絡先。
「その人は私のバンド仲間のお兄さん。歌のレッスンとか楽器のレッスンとかやってる先生なの。一昨日、葉子ちゃんのこと相談してみたらOKだって」
「OK?」
「うん。手取り足取り教えてくれる人だから、心配する必要はなし!とりあえず、自己紹介でもしておいて。あとは葉子ちゃんの行動次第かな」
北見恵吾……。まだ顔も知らない、声も知らない、スマホで繋がったばっかりの人なのに、なぜか胸がドキドキと鼓動を強める。
これが私と先生が出会うきっかけだった。
そして、私が初めて恋に落ちる少し前の出来事。
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