探し物

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探し物

 ユージはいつも、公園に来ると俺にどこからか集めた物を渡してくる。  こいつはなぜか俺がいつも公園に立ち寄るタイミングでいつもいるので、俺もどこか親しげに接している。  ちなみに、ユージというのは俺が勝手につけた名前で、本当の名前は知らない。というか、そもそも野良犬名前は付けられて無いだろう。由来は、こいつと最初に会った時に咥えていた野球のボールに「ユージ」と書かれていたからである。  見た感じは日本犬に見えるが、雑種だろう。茶色い毛並みは雑に散らかっている。野良犬に対して狂犬病対策で保健所が厳しい時代に野良犬をやれているとは、こいつは相当世渡りが上手なのか。  こいつの寝床はどこか知らないが、どうやらこいつには収集癖がある様で、いつも俺が座るベンチの後ろにはユージが集めたであろう大量の子供のおもちゃから高級そうな万年筆まで山の様に物が積み上げられている。  行政は杜撰な管理をしているのか、それが片付けられる気配は一向に無い。 「ワン!」 とテンプレ的な吠え方をして、ユージは俺に近付いてくる。こいつなりの挨拶なのだろう。ごそごそとベンチの後ろに回り、何かを弄っている。  今日は何を渡してくるだろうか。恐らく、名刺入れあたりだろう。 「わふぅ」  予想は当たった。まだ新しく見える名刺入れを加えてそれを俺の前に放り投げてくる。こいつの怖い所は、俺が頭にぼんやり浮かべている気になっている物や、欲しい物をピンポイントで集めて来て、俺に渡すところだ。まるで俺が「持って来い」と頼んでいるかの如く。  そもそも、何も見せずに「名刺入れを持って来い」と頼んだところで、それを理解して持って来れる犬がいるとは思えないが。  ともかく、今日は愛用していた名刺入れが大分傷んで来ていたのでそろそろ変えようかと思っていたところだ。 「?」  ユージは、俺が迷っているのかと思っているのか、首をかしげる様にしてこちらを見つめている。誰が落としたものかは知らないが、ありがたく使わせて貰うことにした。  しかし、そもそもユージはどれくらいの物なら集めてこれるのだろうか?  俺はふと、疑問に思った。今まであいつが渡してきたのは口に咥えられる範囲のもので、例えば先ほどの名刺入れや、シャープペンシル、ライターなどもあいつから貰った事がある。  別に、頻繁に餌をやっていただとかいつも遊んでやっているというわけでは無い。偶然ベンチに座っていたら後ろから顔を出して来て、挨拶代わりと言わんばかりに俺にボールを差し出して来た。偶然俺は前日見たプロ野球球団のプレーに触発され、公園で壁当てでもしたいと思っていたので「面白い」と思ってそれを受け取り、不恰好なフォームで壁当てを始めた。あの時のボールを落とした方のユージくんには感謝している。  閑話休題。とにかく、俺は唐突に刺激された好奇心を満たす為に実験を行うことにした。
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