セリーナ・ハミルトンの失態

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 そう王と約束を交わしたセリーナはさっそく意気揚々と料理に取りかかった。作ったのは高価な食材を使用した肉料理だった。これは、“いざその時”が来たら作ろうと決めていたもので、肉を焼いただけの一番簡単な料理である。  ところが、それを一口食べた王子は喉を詰まらせ、あろう事かすぐに命を落としてしまった。この事態に国中が大きな衝撃を受け、激怒した王によりセリーナは牢に入れられてしまった。こうして彼女は「偽の聖女」として裁かれる事となったのだ。 「これは何かの間違いですわっ! どうかご慈悲をっ……!」  訴えは聞き入れられる事はなく、ついに処刑の日が訪れた。このような状況になって初めて自分の傲慢さを悔いたセリーナだったが、もう全ては手遅れである。憎悪と軽蔑の視線を浴びながら彼女は刑に処されてしまった。  ……ところがだ。誰も知らない真実がそこに密かに隠されていた。セリーナは偽の聖女などではなく、確かに聖女だったのだ。  実は、セリーナの力は特定の料理、つまり庶民がよく口にする“タムタム”にしか宿っていなかった。それは幼い頃、聖女と呼ばれるきっかけとなった、慈善活動での炊き出し料理……。沼魚を野草で包み煮込んだ、あのタムタムこそが聖女の力を証明する特別な料理だったのだ。  類稀なる能力を持ちながら、その能力を深く知ろうともしなかった、これがセリーナ・ハミルトンの失態である。王国は彼女の真実を知らず、こうしてセリーナ・ハミルトンの名は永遠に失われる事となってしまったーー、筈だったが……、
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