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セリーナ・ハミルトンの失態
「これは何かの間違いですわっ! どうかご慈悲をっ……!」
処刑台を前に、セリーナ・ハミルトンは泣き叫んでいた。受け入れ難い現実に気は動転し、体に震えが起きている。だが同情する者は誰もいない。集まった群衆は取り乱す彼女の様子を白々しいと感じており、その視線には憎悪や軽蔑が込められている。敵意に満ちた感情は彼女を更なる孤独へと追いやった。
セリーナ・ハミルトンは、幼少の頃から自分に特別な力がある事を知っていた。それは神聖な存在である聖女の治癒能力で、その事を知るきっかけとなったのは、両親に無理やり連れて行かれた慈善活動での事である。
炊き出しの手伝いを任されたセリーナは、嫌々ながらその日初めて厨房に入り、料理というものを経験した。教えられながら作ったのはタムタムという、沼魚を野草に巻いて煮込んだもので、この辺りではよく食べられる庶民的な家庭料理だ。ところがその料理を口にした者たちが瞬く間に怪我や病気から癒されるという、まるで奇跡のような体験をしたのだから大騒ぎになった。結果、その日から彼女は聖女として崇められるようになったのだ。
「なんと誇らしい!」
セリーナの家族はこの事をとても喜んだ。だが、彼女自身は複雑で大して嬉しいとは思わない。その理由は、セリーナが煩わしいことを極端に嫌う性格だったからだ。命令を聞くのも従うのも、努力をするのも、それを示し続ける事も、彼女にはとにかく面倒くさくてたまらない。ましてや侯爵令嬢である自分が、自ら厨房で料理をするなど、品位に反すると考えていたのだ。だから特別な力があると分かっても厄介だとしか思わなかったし、たまにその能力をせがまれても、“いざその時が来たら”と、のらりくらりとかわしてきたのだ。最初は呆れていた両親も、娘かわいさに次第に同調しはじめた。
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