第7話 ワインの染みが引き金だった

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* 「大丈夫か?」  撫でる程軽く、頬を叩く感触で目が覚めた。俺の中で東条が達した時、少し意識を飛ばしていたらしい。 「……だ」  言いかけて、軽くむせる。喉がからからだ。 「少し待て」  東条はそう言うとシャツ一枚を羽織って立ち上がる。テーブルの方へと向かう。  その間に俺はゆっくりと起き上が……ろうとして、失敗した。全身に力がまるで入らない。  水差しとコップを両手に戻った東条は不思議そうな顔でこちらを見ている。水を一口飲んでから、かすれた声で俺は答える。 「からだ、が、くたくたなんだ、よ」 「そうか」  そうか、じゃない。誰のせいだと思ってる。だがそれを言っても仕方が無いから、俺は渡されたコップの水をとりあえず飲み干す。凄く喉が渇いていた。 そして眠い。  ただ、天気病みの頭痛や身体の重さは抜けていた。全身から吹き出た汗が、知らず、張り上げていた声がその全てを吹き飛ばしてくれたのかもしれない。  東条は側に座ると空になったコップを受け取り、もう少しどうだ、と勧めてくる。今はいい、と俺は首を横に振る。 「風呂に入るか?」  ジャグジーの風呂は魅力的だ。それに広い。だがそれにも首を振る。 「今は俺、眠い」 「そうか」  東条はそう言うと、俺をまたひょい、と持ち上げ、もう一つのベッドへと入れる。汗をかいた身体に、乾いたシーツが心地よい。 「明日はオフと言ったな。ゆっくり眠れ」  この部屋にはチェックアウトは無い。東条はそう付け足しながら俺の髪を撫でる。本気でうとうとし始めたので、気力を振り絞ってこう言った。 「あんたも」  そうか、と東条はほんのりと、やはり男前の笑みを浮かべると、俺の横に入ってきた。  毛布の中でぼそぼそと俺は訊ねる。 「いつからこんなこと俺にしようと思ってたの」  彼は答える。 「お前の制服が染まってるのを見た時」  どうやらアレにひどく欲情したらしい。何が引き金になるのか判らないものだ。  けどそんな部分もひどく愛しく感じるあたり、俺も既に終わっているだろう。  面接の時にも見ていた、とか何でこんなに可愛いんだろう、とかふわふわと甘い言葉のつぶやきの中、俺は次第に眠りに落ちていった。
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