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静まりきった暗い部屋は、永遠に続く地獄みたいだと思った。寒さに凍えながら、小さい声で「ただいま」と口にしてみる。誰もいないから声など、当たり前のように返ってこないんだけど。
不意に、部屋の奥から聞こえた「おかえり」の返事に身体が固まる。誰もいるわけなどないのだ。私は、一人暮らしをしているのだから。
武器になりそうなものは、何もない。手に持っていたカバンを振り上げて、廊下の先の扉を開ける。声が聞こえたのは、私が寂しすぎた幻聴だったのかもしれない。人影もない。
怖がりだから死角を作らないようにしているから、隠れる場所もないはずだ。それなのに、「こっちこっち」と私を呼ぶ声が聞こえる。
声の方に顔を向ければ、実家から持ってきたクマのぬいぐるみがすくっと立ち上がった。
――寂しすぎて、幻覚まで見え始めたのかも
心の中でそっと呟けば、そのクマのぬいぐるみは、ふんっと鼻で笑う。
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