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翌朝、午前6時55分。
「ふぅ……」
目覚めると同時に着替える間もなく一気に入力した解答のAI判定は『最適解』だった。
最新のAIを以てしてもそれ以上の解答がないという称賛。並の学生どころか教授レベルでも出すことは稀とすら言われる最高評価を、ヨシノは今回も一発でクリアすることに成功したのだ。
もっとも、ここ最近は薄氷を踏む思いをすることの方が多い。『これでいい』と結論付けても、心の何処かに『それでいいのか?』と疑心暗鬼な自分がいる。その囁きが何よりも恐ろしいのだ。
「……」
どっと襲いくる疲れと虚脱感に苛まれながらヨシノは制服に着替え、寮のダイニングルームへと続く生徒の列に並ぶ。
いつもそうだが、ヨシノの前後は明らかに隙間が広い。畏怖者、或いは規格外人間としてある種の恐怖の対象という認識なのだろう。
一般課程の受講者を表すモスグリーンや、次代の神童を狙う特進クラスを示すマリンブルーの制服が大半を占める中、ヨシノの纏うピュアホワイトは否が応でも目立ってしまう。
何しろ3万人近くを抱えるこのスクールの中でも、『白い制服』を着ている者は総勢でも10人に満たないのだから。
その服に縫い付けられる、羨望と嫉妬。『その優越感が溜まらない』という者も少なくないが、ヨシノはあまり気分がいいと思ったことはない。別に神童養成クラスを夢見たこともないし、いつの間にか『そういうことになっていた』という感覚に近いからだ。
だが、ここから『落ちる』ことは考えたくもない。毎年ごと数人づつ出る俗に『色落ち』と言われる神童養成クラスから脱落者は、徹底的に虐められる。教師も決して庇わない。だから寮を出て『一般生活者』になるしかない。
この徹底した実力社会において、それは何と屈辱的なことか。世間とのギャップに耐えられず命を絶つ者も少なくないという。
追われる者の立場は常にストレスとの戦いなのだ。
やがて列が進み、自分の番になる。トレイを持ってお皿とフォーク、スプーンをとり、食材の並んだトレイへと向かう。
朝食はいつもバイキング形式だ。
最後にカプチーノをマグカップに入れて席につく。神童クラスの特権のひとつである眺望のよい『指定席』に。
「おはよう、ヨシノ」
ヨシノの前に一人の少女が腰掛け、トレイをテーブルに置いた。
同じ純白の制服。声楽科のマリーだ。これもやはり指定席。どうしても考えこみすぎるヨシノにとって、穏やかなマリーとの会話は心が休まるひととき。
「あ、ああ。おはよう、マリー」
「どうしたのヨシノ、疲れた顔をしているわ。寝不足なの?」
マリーが心配そうにヨシノの顔を覗き込むが。
「そうね。昨晩の課題がちょっと重かったから。少し引きずったかしら」
左手の指先で、トントンとテーブルを軽く叩く。
マリーはその様子を、じっと見つめていた。
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