マメ

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「最近は警戒されちゃって以前ほど攻撃されなくなったけどねー」  天井を見上げる彼は他人事のように呟いた。 「2年ほど前まではよく夜襲とかあったよ。夜中に寝ているとオーヤマから連絡がきてさ。慌ててカメラとドローンで隠れている敵を探して制圧するとか多かったし」  『制圧』つまり、接近してきた敵勢力を壊滅させるという意味だ。 「相手は人間?」  できればせめて機械であって欲しいが。 「んー最初は人間もきたけど、ここ最近は自立型AIロボットが増えたね。向こうサンも人手不足なんじゃない?」  その敵が何者か分からないが、突破口が分からない以上は無謀な攻撃は控えるということか。 「……嫌われてるんだね、ブロッサム派は」  殺しても構わないほどに嫌われるというのは寂しい話ではあるが。 「何しろ事実上の反政府組織だからねぇ。世間に対して強い影響力を持つ前に潰しておきたいってのはあるかもねー。それにしても誘導ミサイル50発連続投入とか、1個大隊での包囲作戦とか、もう少し加減して欲しいと思うこともあるけどさぁ」 「はは……それは、大変ですね」  夜襲とか奇襲どころかほとんど軍事作戦並の強硬手段だと思うが、それでもマメの防御力を突破できなかったということだ。流石は『元・神童』。それだけ一切の妥協を持たない倫理観の欠如は、政府として看過できない欠点だったのだろう。 「自分たちが生き残るために『敵を制圧する』というのは法律上でも正当防衛として認められているし、ときとして殺すしか手がないこともある。でも、それによって心に癒えない傷を負う者も少なくない。だからこの『必要悪』に耐えられるマメは重要な存在意義があると思うわ」 「ラボでも割と嫌われ者だけどね、何しろ『殺し屋』だから。……ご飯もタカネが持ってきてくれるんだ。だから僕はあまりこのペントハウスから出ないようにしている」  世間にはどうしても必要な職業なのに忌み嫌われる人たちが少なからず存在している。墓堀人夫とか、刑務所職員とか。或いは悪質な税金滞納者への強制執行者とか。  彼もまたそうした一人。 「あなたは生命というものに執着がないってエドが言ってたけど」 「そうだね。僕は『何のために生きているのか』とか興味がない。人間だけが生物の中で特別だとも思わない。人は生きるために多くの動植物を殺すだろ? 野生の世界では弱肉強食が当然。それとどう違うのか、僕には理解できないよ」 「では、あなたにとって『生きていく上でこれが必要』というものはある?」  ヨシノの問に、マメは冷めたカップをテーブルに置いた。 「そうだね。今日食べるお菓子と一杯のホットミルクが確保できれば、それで十分。ああ、弾丸は必要不可欠だね。最低1発はいる。人生の最後に、自分の頭を撃ち抜くためにだ」
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